Previous/原発事故 市民版ECRR2010勧告の概要―矢ヶ崎克馬解説・監訳 原文
松元保昭20120424配信にあたって peacephilosophy.blogspot.com
松元保昭20120424市民版ECRR2010勧告の概要(239-242ページ)-矢ヶ崎克馬解説・監訳(その1) part1
松元保昭20120424市民版ECRR2010勧告の概要(242-243ページ)-矢ヶ崎克馬解説・監訳(その2) part2
ECRR2010ExecutiveSummary (page239-243)

松元保昭20120424配信にあたって

原発を推進することを「国策」としてきた日本の原子力行政の放射線防護基準は、一貫してICRP(国際放射線防護委員会)およびIAEA(国際原子力機関)の思想とリスク基準に依拠してきました。「安全神話」の根拠であるばかりか、避難勧告、避難区域の設定・見直し・解除、学童避難・疎開、自主避難の理解、水および農酪水産物など食品汚染評価および出荷制限、瓦礫処理、除染(移染)、大気、海洋、河川の汚染リスク評価、そして賠償・補償の基準づくりなど未完の重要な施策にICRPの考え方とリスク基準が用いられ、さらに今後の各種訴訟においても「国際的な参考基準」として適用されることが予想されます。

ICRPのリスク基準は、遺伝子学や分子生物学が確立される以前の段階でつくられたもので、原子力産業の擁護、推進を最優先とし、住民に放射線被曝を受忍強制させるばかりか、なによりも低線量放射線による内部被曝の危険性を「科学的に」無視ないし軽視していることが指摘されています。

IAEAとともに原発を推進するICRPへの根本的批判から生まれた『ECRR(欧州放射線リスク委員会)2010年勧告―低線量電離放射線被曝の健康影響』は、2011年5月にECRR2010翻訳委員会訳として美浜の会ブログに掲載され、2011年11月に山内知也監訳『放射線被ばくによる健康影響とリスク評価―欧州放射線リスク委員会(ECRR)2010年勧告』(明石書店刊)として全文が翻訳出版されています。おかげで、放射線リスク評価をめぐる歴史的、倫理的、生物学的、疫学的な探求による体系的なICRP批判の全貌をみることができます。しかし山内知也監訳でも300数十ページもあり、多岐にわたりそれぞれ専門的な内容なので放射線学などに素人の私たち市民が理解することは、容易でないことも確かです。

放射線防護にかんする政府の諸施策の矛盾点、電力会社やマスコミの虚偽や虚構を見抜くためにも、このECRRの考え方とリスクモデルを、「市民の立場に立った放射線防護の基本」として理解することが非常に大切だと考えます。昨年から「市民版ECRR勧告」をネット上に登場させることはできないかと探ってきましたが、このたび内部被曝の専門家矢ヶ崎克馬さんが監修してくださり、いくつかの質問に応えるかたちで核心にふれた解りやすい解説を書きおろしてくださいました。お蔭で読みやすく、さらに市民の理解が可能な「勧告と概要」になったと思います。

2003年勧告にもとづく「ECRR2010年勧告」は、ICRP、IAEA、UNSCEAR、WHOの諸文書はもとより、5000以上の研究事例にもとづくYablokovをはじめ、Rawls、Popper、Stewart A.M.、Petkau、Sternglass、Tondel、Miller、Little、Gould、Gofman、Busby、Bandashevskyなどわが国でもよく知られている哲学者、研究者、および澤田昭二氏はじめ日本人研究者23名を含む実に655件もの研究論文および文書が包括的に参照されています。(ちなみに、IAEA/WHOの報告はほとんどが英文文献による350例の参照にとどまります。)

これらの結論部分を、ECRR理事会が14項目(8ページ)に要約したものがこの「勧告の概要」(Executive Summary:理事会概要)です。勧告本文の最終章、第15章2節の「原理と勧告」12項目の最後には、「本委員会は世界中の全ての政府に対して現行のICRPに基づくリスクモデルを緊急の課題として破棄し、ECRR2010リスクモデルに置き換えることを呼びかける。」とあります。今後、長期にわたる闘いを余儀なくされている日本の市民が、政府や電力会社に対して内部被曝に適用できないICRPリスクモデル基準を撤回させることは重要な目標になっています。

冒頭に述べたように3・11後の、食品暫定規制値、学校放射線基準値、避難区域の解除、除染(移染)、瓦礫処理などをめぐって、方法的に低線量放射線による内部被曝を除外しているICRPのリスク基準に国民的な疑問が湧き起こり、政府関連諸機関がそれに正当に答えられないまま、受忍強制の施策が拡大している現状です。

年間1ミリシーベルトであった日本の被曝許容限度は、事故後、「緊急時年間20~100ミリシーベルト」、「事故収束後年間20~1ミリシーベルト」というICRP基準をもとに拡大され、「直ちに健康に影響を及ぼす値ではない」などと公言したあげく、緊急時なのか収束後なのかをめぐっても恣意的解釈を通じてさらに国民に混乱を与えています。事故後、あわてた政府は首相官邸ホームページに、「放射線から人を守る国際基準~国際放射線防護委員会(ICRP)の防護体系~」(4/27)を発表して「ICRP基準」を強制し、6月には日本学術会議会長が、当時被ばく線量について動揺していた国民に対して、まったく無批判に「国際的に共通の考え方を示すICRPの勧告に従い」ましょう、と押し付ける異例の談話を発表する始末でした。

こうした動きを収束するべく、12月には細野原発事故担当大臣の要請によって元放影研理事長:長瀧重信、および放医研緊急被ばく医療ネットワーク会議委員長:前川和彦を共同主査とする「低線量被ばくのリスク管理に関するワーキンググループ」に「報告書」を作成させましたが、内容は終始ICRPのリスク基準を参照・追認するだけのものでした。現在の「科学的知見」は「国連科学委員会(UNSCEAR)、世界保健機関(WHO)、国際原子力機関(IAEA)等の国際的合意」であると前置きして、これらの「国際的な合意では、…100ミリシーベルト以下の被ばく線量では、…発がんリスクの明らかな増加を証明することは難しい、…現時点では人のリスクを明らかにするには至っていない」などと、政府の施策である「年間20ミリシーベルト」を援護している「結論」を国民に押し付けています。この2月には首相官邸のホームページにも再掲されています。

●低線量被ばくのリスク管理に関するワーキンググループ報告書:2011年12月22日

この「報告書」の重大な問題点は、「科学的知見と国際的合意」を意図的に混同し、「国際的に合意されている科学的知見」という偽装を大前提にしながら、「相反する意見、異なる方法やアプローチも含め」などと、「客観性」を装っていることです。私たち市民が目を覚まされた「レスボス宣言」や「ECRR(欧州放射線リスク委員会)2010」の勧告はもとより、「ドイツ放射線防護協会」、「IPPNW(核戦争防止国際医師会議)」、「ヒューマンライツ・ナウ(HRN)」、「クリラッド(CRIIRAD)放射能に関する研究と独立情報委員会」、「ベラルーシ放射線防護研究所」などの国際的市民科学者の提言、およびユーリ・バンダシェフスキー教授らの専門的知見を無視ないし黙殺し、さらに、わが国の誇るべき内部被曝研究者たちの研究成果と科学的知見も一顧だにしていない「報告」が現在と将来の日本の「リスク評価基準」になっているのです。

なお、ICRPとIAEA、UNSCEAR、WHO、FAOなどの国連諸機関との歴史的な結びつき、癒着については、「ECRR2010年勧告」の第5章2節に詳しく描かれています。

第5章2節 外部および内部被ばくのICRP放射線被ばくモデルの歴史的由来

また、中川保雄『増補・放射線被曝の歴史』(明石書店)に詳しいのでご参照ください。

昨年7月来日したECRRのクリス・バズビー博士は、羽田で次のように述べていました。

『先ず最初に知ってほしいのは、ICRPの基準は役に立たないということです。内部被曝によるガン発症数について誤った予測をだすでしょう。ICRPのモデルは1952年に作られました。DNAが発見されたのは、翌1953年です。

ICRPは、原子爆弾による健康への影響を調べるために設立されました。第二次世界大戦後、大量の核兵器が作られプルトニウムやウランなど、自然界にはないものを世界中に撒き散らしました。このためICRPは、すぐ対策を考えなければなりませんでした。そこで彼らは、物理学に基づいたアプローチをとりました。物理学者は、数学的方程式を使ってシンプルな形にまとめるのが得意です。しかし、人間について方程式で解くのは複雑すぎます。

ついで彼らは、人間を水の袋と仮定し、被曝は、水の袋に伝わったエネルギーの総量によると主張したのです。これはとても単純な方法です。人の形の水の袋に温度計を入れ、放射線を当て温度が上がったら、それが吸収された放射線量というわけです。…』

松井英介氏は「内部被曝問題研究会」の発足記者会見で次のように述べています。

『放射線被曝は、ひとつ一つ多様で異なっている細胞レベルで考えなければなりません。そして細胞レベルのDNAにどのような傷を与えたかを見なければならないのです。ところが国際放射線防護委員会ICRPは、この内部被曝をまったく無視してきました。

体内に入ったアルファ線、ベータ線は、外部からのガンマ線のように一回ではなく、繰り返し長時間、強い放射線を細胞に照射し続けて、細胞核のDNAの2本の螺旋に傷をつけますし、体内の水の分子がイオン化して毒性を発揮する、あるいは近年の分子生物学の成果で知られたバイスタンダー効果によって直接被曝していない隣の細胞が犯されて遺伝的不安定性・ミニサテライト突然変異を招くということも分かっています。このように細胞という場で様々な有害事象が起こっているのです。

人体は内部環境を保つために、免疫ホルモン、自律神経など様々なバリアーやフィルターがありますが、胎盤もその役割を果たしています。ところが100ナノ以下の粒子は胎盤を通過してしまいます。胎児、幼児、子供の細胞の代謝活動は大人以上に活発ですから、子どもは質的に異なる存在とみなければなりません。ICRPは、この子供も大人と一括して扱うのです。

ですからECRRが2003年に提起したように、内部被曝モデルと外部被曝モデルを区別して考えなければならないのです。

ICRPは発足当時、「内部被曝委員会」を設置しましたが、これを2年で閉じてしまいます。その委員長であったカール・モーガンが「ICRPは原子力産業に依拠する立場であったため」と証言しています。つまり通常運転中の原発周辺5キロ圏内にも昆虫や植物の奇形が生まれ、5歳以下の幼児の白血病が2倍以上という結果も報告されています。原子力産業を推進するICRPにとっては、こうした内部被曝の影響を認めるわけにはいかないのです。』

この4月20日、農水省は食品関連の270団体に国の規制値よりも厳しい独自基準で検査することを止めるよう通達を出しました。事故状況や汚染状況の不作為・隠蔽からはじまり、マスコミを使っての除染の過大宣伝、瓦礫の広域処理宣伝など、市民に無理やりICRP(あるいはそれ以上の)「基準」を押し付ける日本という国は、放射能を封じ込めないで言論を封じ込めようとする挙に出ている状況です。放射能を拡散した責任者を処罰することもなく、子どもたちとその未来を放射能と誤魔化しで覆うことは、許されないことです。

読売新聞201204211355食品検査、独自基準やめて…農水省が通知

食品中に含まれる放射性セシウムの検査で、国の規制値より厳しい独自基準で検査をする動きが広がっているとして、農林水産省は20日、食品関連の270団体に、国の規制値に基づく検査を求める通知を出した。

同省は「独自基準は、国の新規制値を形骸化させる」としている。

国は4月から、暫定規制値(一般食品に含まれるセシウム1キロ・グラム当たり500ベクレル)を改め、新規制値(同100ベクレル)を導入。ただ、一部の食品スーパーや消費者団体などは「消費者により安全・安心を届けたい」として、100ベクレルよりも厳しい規制値を独自に設けている。通知は「過剰な規制と消費段階での混乱」を避けるため、新規制値に基づく検査を要望。規制値は世界的にも厳しい基準であることを強調している。

市民のいのちと健康を守る施策を実現させ、賠償と補償を勝ち取り、今後の訴訟に打ち克つために、政府関連機関と電力会社が「基準」と信じ込んでいるICRPへの根本的批判と内部被曝の基本的事実が述べられているこの「市民版ECRR2010勧告の概要―矢ヶ崎克馬解説・監訳」をネット上で自由に活用、普及していただきたいと願っています。(2012年4月松元保昭記)


松元保昭20120424市民版ECRR2010勧告の概要(その1)

【註1】これは市民が読みやすく自由に活用することを目的とした、「ECRR(欧州放射線リスク委員会)2010年勧告」に加えられた「理事会概要Executive Summary」(勧告の概要)の翻訳です。矢ヶ崎克馬さんの監修と解説によってかなり理解しやすくなったと思いますが、不適切な翻訳があれば松元の責任であることをお断りしておきます。

【註2】原文には質問と解説はありません。各項目の質問は松元が配し、その解説は矢ヶ崎克馬さんが執筆しています。また、勧告本文にあるいくつかのカッコ内註の用語説明も、矢ヶ崎さんのものです。註のないカッコ内は、原文のものです。

この報告書には、2003年に本委員会が発表したモデルの改訂版が掲載されている。ここでは、電離放射線被曝による人体への健康影響について本委員会が導き出した結論を概説しており、またこれらのリスク評価の最新モデルを提案している。この報告書は、政策決定者およびこの分野に関心ある人々に向けられており、本委員会が開発したモデルの簡潔な解説とモデルの根拠となる証拠を提示することを目的としている。このモデルの開発は、現行のすべての放射線リスク関係法の根拠となり著しい影響を与えている国際放射線防護委員会(ICRP)のリスクモデルを分析するところから始めている。

本委員会は、このICRPモデルは体内の放射線核種による内部被曝への適用については本質的な欠陥があると見なしているが、歴史的に存在している被曝データを扱うという実際的な理由から、内部被曝にたいする核種と放射線ごとの特別な荷重係数を定義してICRPモデルの誤差を修正することに同意し、その結果、実効線量(シーベルト表記)はそのまま使われることになる。したがって、この新しい方法によって、ICRPが公表した致死性がんの全体的なリスク要因および他のリスク作用の大部分は変更せずに使用することが可能となり、またこれらを根拠に制定された法律も変更せずに使用することができる。本委員会のモデルによって修正されるのは、放射線量の計算である。

質問①:まず、ICRPが戦後から現在に至るまで日本と世界に及ぼしている影響について概略教えていただきたいと思います。
矢ヶ崎:ICRPは、1950年に発足し、アメリカの核戦略に従って、核戦争、核兵器開発、原子力発電の維持・推進のために、被曝の科学あるいは放射線防護学の側面で、犠牲者を隠し、見えなくさせる強力な土台を作ってきました。内部被曝を隠すことは、犠牲者群を隠すことです。これの隠ぺいに成功するかしないかで、原子力発電産業が、巨大な儲けができるかできないかが分かれてしまうのです。被曝を対象とする科学や防護学は、真理探究を行う科学としての具体性と誠実さを維持しては来れなかったのです。
ICRPは、内部被曝を見えないようにした物差しである「吸収線量」という定義(臓器ごとに放射線エネルギーを測る)をもって、「被曝の見方に関する歪められた世界観」を作り上げてきました。リスク―ベネフィット論(公益のためには犠牲が出ても仕方がない)や、コストーベネフィット論(「合理的に達成できる限り」という範囲で限度値を低くする)を展開し、憲法に謳われている「個の尊厳」や生存権を真っ向から否定する考え方を維持してきました。さらに、内部被曝を隠ぺいし続けるためには、内部被曝研究を阻止してこなければならなかったのです。「100mSv以下の放射線に起因する疾病のデータは無い」などに、典型的にICRPの目的意識と彼らの作業結果が現れています。
歴史的に改めて振り返りますと、原爆、ビキニ核実験、原子力発電所等からの放射能漏洩、チェルノブイリ事故等々、実にあらゆるところで、内部被曝の犠牲者隠しを行ってきたのです。「原爆被爆者認定基準」は、1957年の原爆医療法で定義されましたが、現在もまだ、完璧に内部被曝の指標を欠落させたままです。原爆症認定集団訴訟に関わる全ての判決で内部被曝の認定を基礎に、原告側が勝訴しているにもかかわらず、国とそのサポーターは内部被曝を未だに認めていないのです。
ICRP体制は、ほとんど全世界の医療機関、教育機関、原子力施設の放射線防護に適用されていて、被曝の見方に関しての巨大な「内部被曝:低線量被曝隠蔽」の維持勢力を形成しているのです。ICRP体制の維持・執行機関は、IAEA、WHO、国連科学委員会、核抑止政策や原子力発電を遂行しようとする各国政府等なのです。
質問②:その上で、ECRRが意図したことはどのようなことだったのですか?
矢ヶ崎:放射線被曝をありのままに認識して、被曝から健康を守ることができる「目」を確保し、防護基準にしていこうというものです。ICRPが内部被曝を考慮していないことで、放射線リスクを過小評価していることを批判し、1997年に結成された市民組織がECRRです。内部被曝を正当に評価できる体系を求め、市民の健康を犠牲にするコスト―ベネフィット論などを批判し、現実の放射線被害を評価できる放射線防護の指針を、「勧告」として2003年および2010年に出しました。

1、欧州放射線リスク委員会(ECRR)は、1998年2月の欧州議会STOAワークショップにおいてICRPのリスクモデルにたいする批判が明白に確認されたことを受けて設立され、その後、低線量放射線の健康影響について新たな観点が探られるべきだと合意された。本委員会は、ヨーロッパ内の科学者とリスク評価専門家で構成されているが、他の諸国を拠点に活動している科学者や専門家からも助言や証言を得ている。

質問③:リスクモデルって何ですか?
矢ヶ崎:どんな被曝の仕方があるか、放射線をどのように測るか、身体に対するリスクの表し方はどうするか、どんな放射線被害が生じるか、放射線被害が生じる割合はどのようなものか、放射線の種類によってリスクが異なるかどうか、等々を、被害が推算できるように定式化したものの総体をリスクモデルと言ってよいでしょう。
リスク判定の概念は2つの要素から構成されます。その二つの要素は、①実効線量をどのように算出するか、②単位実効線量(1Sv)当たりに現れる犠牲者数(リスク係数)をどのように与えるか、です。ICRPは、①吸収線量の定義を臓器当たりとすることを定義しています。これは実効線量を小さく算出することをもたらします。また、②犠牲者を隠ぺいすることによりリスク係数(1Sv 当たりの犠牲者率)を低くすることに努めてきました。ICRPは放射線被害が現れる障害を、がん等に限定して、実際現れる他の多くの健康被害を放射線に起因する病因から外し、リスクをさらに小さくしています。この両者により、とくに内部被曝リスクを極端に過小評価できたのです。小さなリスク係数を保つために、ICRPが行ってきた実践は、米国と日本政府が協力して行った原爆被爆者の内部被曝被害者隠ぺいを踏襲するだけでなく、核実験や原発を含むあらゆる放射線被害の犠牲者を公式記録に載せないようにすることと、内部被曝を研究させないように科学上の専制支配を行うことによって、達成してきたと言えます。

2、この報告書は、人間遺伝学的要因から判断して放射線核種によって内部被曝した住民の中に、とくにがんと白血病の疾病リスクが増大しているという疫学的証拠とICRPのリスクモデルとの間にある不一致を確認するところから始めている。本委員会は、ICRPのリスクモデルをこのような(註:ガンや白血病の)リスクに適用させ、その科学的な考え方の基盤に焦点を当てた上で、ICRPモデルはすでに公認されている科学的手法に基づいて確立されたものではないと結論をくだす。具体的にいえば、ICRPは複数の点放射線源からの長期にわたる内部被曝にたいして、急性の外部放射線被曝の結果を適用しており、それを成り立たせている外部放射線による照射の物理学モデルに主として頼っている。

しかし、これらは平均化しているモデルであり、細胞レベルに生じる確率的な被曝にたいしては適用することができない。すなわち一つの細胞はヒットされるか、ヒットされないかのどちらかであり、最小の衝撃は一回のヒットだが、この最小の衝撃の倍数で衝撃は時間とともに増加していく。したがって本委員会は、体内の放射線源によるリスク評価においては、機械論に基づくモデルよりも内部被曝の疫学的証拠を優先させるべきだという結論をくだす。

質問④:ICRPモデルは間違っていると言っていますね。簡単にいうと、どこが間違っているのですか?
矢ヶ崎:ICRPのモデルは、すでに行われている分子生物学的な方法(すでに公認されている科学的手法)に基づいてはおらず、分子生物学以前の機械論的モデルであり、臓器全体で平均化するモデルであることを固執し、維持しようとしていることが最大の誤りです。放射線からいのちを守ることは、現実を客観的にみるという、誠実に科学を実施することで、初めて達成できるのです。真の防護は、科学の進歩と共に防護の観点も方法も変わらなければならないのに、ICRPはそれを拒否し続けていることが誤りの元です。
内部被曝は、発展しつつある分子生物学の知見により、分子レベル・細胞レベルで、撃たれるか、撃たれないかの、「被曝の具体性」を見る観点が重要です。放射線被害者を評価するためには、放射線環境にある人々と、放射線環境に無い人々の健康を比較するなど、疫学に裏付けられた「被害を具体的に見る科学の誠実さ」が必要です。内部被曝の評価は、科学的側面だけで言うと、古い体系のモデルを近代化しようとしないICRPモデルでは不可能なのです。
逆に、現実の被害を具体的に誠実に見る代わりに、古い体系の見方を現実に押し付けようとする権威主義・教条主義(科学的側面だけからみれば演繹的手法)を強行しようとしているICRPは実に危険なのです。

3、本委員会は、ICRPモデルおよびそれらを根拠としている法制度が包括している原理の倫理的基盤について考察している。ICRPが正当であると主張することは、もはや時代遅れとなっている哲学的理由づけ、とりわけ功利主義的な平均費用-便益計算に基づいていると本委員会は結論する。功利主義は、社会と諸条件が公正であるか不公正であるかを識別する能力を欠いており、行為の倫理的正当化の根拠としてはとうの昔に打ち捨てられたものである。例えばそれは、個人の利益ではなくもっぱら計算された全体の利益のみを考慮しているのだから、奴隷社会を支持するためにも使われうるだろう。

本委員会は、(原子力発電の)操業に起因し公衆成員にとって回避可能な放射線被曝問題には、ロールズの正義論あるいは国連人権宣言の基礎となった考え方のように、権利を根拠付ける哲学が適用されるべきだと提案する。本委員会は、同意なしに放射性物質を放出することは、極微量の放射線量にいたるまで、小さくとも有限な致死的傷害の可能性がある以上、倫理的に正当化することは出来ないと結論をくだす。万一こうした被曝が容認される場合、「集団線量」の算定は関係者すべての活動と時間尺度を考慮して使用すべきであり、そのように全住民を考慮してはじめて危害全体の総和が統合して積算されると本委員会は主張する。

質問⑤:ここでは、ICRPは倫理的にも間違っていると言っていますね。功利主義というのは商売の論理だと思いますが、倫理的にどこが間違っているのですか?
矢ヶ崎:人権を不都合に思う商売の論理を取るか、人権に基づいて命を大切にするかの、考え方の問題で、ICRPの倫理は人権を軽視するものです。功利主義は、「公益のためには犠牲が出てもやむを得ない」という考えです。この功利主義を社会に受け入れさせることと、ICRPによる虚偽の放射線防護学で犠牲を隠すことにより、原発企業は生き残って来れたのです。
功利主義は、個人個人の承諾なしに放射線に被曝させ、それによる犠牲は「本人責任で、我慢してください」、という受忍強制を伴うものです。医療の現場で、医療に役立つという、本質的で具体的なメリットを前提にして、本人が被曝をすることを、命を守ろうとする願いと共に承認するものとは根本的に異なるものです。人格を尊重し認めている場での被曝とは完璧に異なるのです。
これは、日本国憲法の基礎にある「個の尊厳」の考え方に根本的に敵対し、憲法25条の生存権にも、決定的に反する考え方なのです。これは第2次世界大戦の侵略戦争の際に、天皇制ファシズムによって強制された人権否定と共通する基盤を持つものではないでしょうか。

4、本委員会は、被曝タイプ、細胞、また個人について平均化することに問題が存在するため、「集団に適用される放射線量(註:集団線量)」を厳密に確定することはできず、個々の被曝については細胞レベル、分子レベルにおける影響という観点で扱うべきだと考えている。しかしながら実際に実現することは不可能なため、本委員会は実効線量の算定に新たに2つの荷重係数を加えることによってICRPの考え方を拡張したモデルを開発した。これらは生物学的・生物物理学的な荷重係数であり、内部被曝点線源によって生じる細胞レベルでの時間と空間における電離される密度あるいは分割化(註:電離に粗密の場所ができること)の問題に焦点を当てている。事実上、これらは異なる(アルファ線、ベータ線、ガンマ線などの)特性による電離密度の相異を調整するために採用されたICRPの放射線荷重係数の拡張である。

質問⑥:「平均化」が間違っていると言っていますが、どうしてですか? それに、ICRPモデルは間違っていると言っていたのに、ここではそれを「拡張したモデル」を使うと言っていますね。どうしてですか?
矢ヶ崎:ここで言う内部被曝線源とは、放射性微粒子のことです。1マイクロメートル直径のサイズの微粒子では約1兆個の原子が含まれています。ここからたくさんの放射線が飛び出し、この微粒子に近接する局所では空間的にも時間的にも大きな被曝を伴います。しかし、微粒子に遠いところでは被曝が及ばないのです。被曝が極端に高い局所と時間的継続から来る特別の被害があります。
臓器という大きなスペースでの平均化は、細胞レベルでのイオン化(分子切断)の密度の高いところも、疎らな所も、全部平均化してしまい、それを臓器全体にわたる均一な被曝に還元してしまうものです。平均化という言葉の具体的な結果は、小さいながら高密度に分子が切断され、それゆえ高いリスクを背負う部分を客観的に評価することを避け、被曝の無いところを含めて臓器全体で平均を取ると、危険な局所部分が何も見えなくなるという結果を招くものなのです。
ECRRはリスクモデルの様式を、すでに世界的に知れ渡っているICRPのリスクモデルに従って展開する道を選んだので、ICRPの加重係数方式に、さらに二つの係数を追加して、現実として展開する被曝をモデルでしっかり表せるように、再現できるようにしたのです。その二つの係数というのは、①内部被曝が放射性微粒子と言われる点線源であり、その周囲に密度の高い被曝を行うことと、時間的にも同一の場所を繰り返し被曝させることを考慮した生物物理学的な係数と、②放射線核種により放射する放射線が異なり、被曝様式(崩壊系列、放射平衡、放射線種、放射線エネルギー等々)も異なることを表した同位体・生化学的係数です。

5、本委員会は、放射線被曝の放射線源について考察する。新たな同位体の被曝影響を自然放射線による被曝と比較して規格化する試みには注意するよう勧告する。新たな同位体の被曝とは、ストロンチウム90やプルトニウム239のような人工核種による内部被曝だけではなく、核種のマイクロメートルの範囲への凝集(ホットパーティクル)も含まれており、これらはすべて人工核種(プルトニウムなど)および自然核種の形態変化したもの(劣化ウランなど)で構成されている。こうした(註:自然放射能との)比較が、現在は「吸収線量」というICRPの考え方を根拠として行われている。このICRPの吸収線量概念は、細胞レベルの傷害をもたらす結果を厳密に評価してはいないのである。放射線による外部被曝と内部被曝との比較についても、細胞レベルでの影響が量的に全く異なる(註:内部被曝の線量が桁違いに大きい)可能性があるため、リスクを過小評価する結果を招くと考えられる。

質問⑦:自然放射線と比較してはならないと言っているようですが、ここでは何を勧告しているのですか? ホットパーティクルや吸収線量というコトバも分からないのですが?
矢ヶ崎:自然放射線の線源は、決して多くの放射性原子が集合して放射性微粒子になっている点線源ではありません。例えば、放射性カリウム原子は、自然状態では決して微粒子を構成せず、カリウム原子1万個を集めるとその中の1個だけが放射性原子なのです。放射性原子が同じ場所にかたまっていることは決してないのです。
これは、いわゆる人工放射性原子の状態とは全く異なります。原子炉でつくられる放射性原子や劣化ウラン弾でつくられる酸化物エアロゾールは、ほとんどが微粒子を形成しています。従って、自然放射性原子(K40等)から放射される放射線は、他の自然放射性原子(K40等)から放出される放射線が打撃した同じ場所を、打撃するようなことは無いのです。
この場合の被曝状況は臓器全体で平均化したものとさほど変わりはないのです。ICRPで算出する方式によって推算が可能なのです。ところが人工の放射性核種はほとんどが集合体(微粒子)を形成し、この微粒子(点線源)から継続して密集した放射線が放出され、この微粒子の周囲には大変高い被曝領域(電離あるいは分子切断が密集している)状態が出現します。散漫な被曝を行う場合とは危険度が全く異なるのです。ICRPでは、吸収線量は臓器ごとの単位(あるいは全身)というマクロな単位で、その中に放射線が与えたエネルギーの量だけを計算し、それをその質量で割る(シーベルト単位で与えられる)ものです。繰り返しになりますが、ICRPでは局所(ベータ線の場合は半径1センチメートル程度の球内)のリスクは推定できない(無視する)のです。
この事情は、炭素14、海水中のウラン238、等々、あらゆる自然放射性原子に当てはまります。さらに宇宙から飛んでくるニュートリノ等の宇宙線は透過性が高く、物体とは非常に弱い相互作用をしますので、ガンマ線の場合同様、疎らな被曝を与え、相対的リスクは人工放射能より低いものです。
ホットパーティクルは高密度に電離される領域、あるいは周囲に高密度で被曝を与える放射性微粒子を言います。

6、本委員会は、最近の生物学、遺伝学、およびがん研究の分野での発見によって、ICRPのDNA細胞ターゲットモデルはリスク分析の信頼に足る根拠とはなりえず、さらにこのような放射線作用の物理学モデルは、被曝住民にかんする疫学的研究よりも優先させるべきではないと主張する。最近の研究結果は、細胞への衝撃から臨床的疾病へといたるメカニズムについては、まだわずかな解明しか進んでいないことを示唆している。本委員会は、被曝にかんする疫学的研究の根拠を考慮し、被曝による傷害という明白な証拠をもつ多くの実例が、根拠のない放射線作用の物理学モデルを基礎にしたICRPによって無視されてきたと指摘する。

本委員会は、これらの研究を放射線リスク評価の根拠として復権させる。したがって、セラフィールドで観察された小児白血病集団の症例数とICRPモデルの予測値との間に生じた300倍という差は、このような被曝にともなう小児白血病のリスクのひとつの評価軸となる。こうして本委員会によってこの係数は、子どもたちを対象としたシーベルト表記の「実効線量」を算出する荷重係数の中に加えられ、特定タイプの内部被曝による傷害算定の中に組み入れられている。

質問⑧:「物理学モデル」と「疫学的研究」の違いについて書かれているようですが、どうして300倍もの差がでてしまったのですか?
矢ヶ崎:物理学モデルというのは、ICRPが採用している「吸収線量」定義に代表されます。被曝の具体性を無視して大きな臓器で平均化する方法です。このモデルは、質量が1kg以上の臓器ごとというマクロ的なスケールで、その臓器に「吸収された放射線エネルギー」だけで被曝を定義します。ここでは分子生物学的な、細胞単位のミクロな目で確認できるような被曝の具体的展開を一切捨て去った、平均化と単純化を行うのが特徴です。
1990年のICRP勧告では、「吸収線量はある一点で規定することができる言い方で定義されているが、しかし、この報告書では、特に断らない限りひとつの組織・臓器の平均線量を意味する」と、内部被曝を見ないことを露わな形で述べています。これに対し、2007年勧告では、微分方程式を出し、一見ミクロな観点から吸収線量を定義し、内部被曝も線量として計測できる見方をしているように見せています。しかし、実態は上記した1990年定義を粉飾しただけなのです。
計測するサイズを表す概念として「質量素」という言葉を使用し、「微少」エネルギーを「微少」質量で割るという定義式を与え、ミクロに分割しているように錯覚を与えます。私が、何故「錯覚を与える」などと表現するかと言いますと、本来の数学的定義では、エネルギーはこの質量素に吸収される全エネルギーで無ければならないのです。ところが、“驚くことにICRP2007年勧告では、全エネルギーではなく”「平均エネルギー」という概念を、この定義式のエネルギーに使用しているのです。数学的表現ではミクロに見せかけているのですが、実質はあくまで「計測単位はマクロ量(臓器単位)」を陰湿にこっそりと主張して定義式前に述べている「臓器ごとに平均する」という言葉による定義と矛盾ないようにしているのです。
ここで言う物理学的モデルとは、物理学的モデル一般のことを言っているのではありません。被曝の具体性を一切捨象して平均化と単純化を行い、均一化されたエネルギーだけで被曝を見るICRPの見方を指しています。原発推進の世俗的支配をうけるというようなことが一切ない他の純粋物理学で、れっきとした客観的事象を数式化している物理学的モデルとは異なっているICRPの物理的モデルを指します。一般的に科学の分野では、個々の研究が具体的に展開していれば(具体性の無いものは科学とは言えないでしょう)、具体性を消去したり、複数の要因をひとつだけ取り出して、その応答を見たりする単純化や平均化は、物事の本質をえぐりだすのに有効な手段です。
これに対してICRPは、具体的に被曝を探究するという具体性を排除している上での単純化・平均化ですので、科学の手段ではなく、教条化・権威主義化の手段となっているのです。
放射線を作りだす商売をしていると、商売による現実的利益と放射線による犠牲者の両極が現れます。「何を重視してリスクモデルを作るか」が現実的に大きな社会的問題となります。ここでは、純粋科学には無いICRP特有の、被曝の物理的モデルを言っているのです。
このリスク評価は、アメリカの核兵器を残虐兵器と見せないために、枕崎台風を利用して、台風で洗い流された後で測定に入らせ、かろうじて土の中に残存していた放射性物質量を、はじめから「これしか無かったのだ」とさせた、犠牲者切り捨てのための科学的粉飾を皮切りにしています。原爆犠牲者のうちの、放射性降下物を体内に取り入れた内部被曝者を、被爆者から一切排除して(非被爆者として扱い)、これらの被爆者を初期放射線による「被爆者群」の参照群(被曝していない群)に仕立てたリスク評価と相まって、極端なリスクの過小評価を行っているのです。ICRPモデルは、歴史的な長期間にわたって、世界の被曝を見る目を歪めてきました。米核戦略の犠牲者隠しに指導された政治の科学支配の典型的現れなのです。
このモデルの適用の仕方は、まずICRPの考え方ありきで、「ICRPによれば、そんな放射線被害が生じるはずがない」という、権威主義、教条主義的に現場の被害を切り捨てる、演繹的手法を特徴としてきました。福島事故の後、様々に現れている身体影響を、多くの医師が「ICRPによれば、そんな放射線被害が生じるはずがない」として医療現場で切り捨てていることを聞いていますが、是非、現実に医の倫理を持って対応していただきたいものです。
これに対し、「現場に放射線の被害者がいる」という事実から出発する「事実を科学的な目で客観的にとらえる」ことが、そもそもの人権に基づいた「放射線防護」なのです。この「事実に基づいて被曝を明るみに出す」方法として適用した科学手法が帰納法であり、科学的手法としては疫学的方法なのです。
300倍というのは、疫学的方法で確認された現実とICRPにより導出されるリスク評価の差なのです。内部被曝の状態によっては1000倍ほどの差が考察できます。現実の被害に対してICRPモデルは「その300分の1」の被害しか予測しない過小評価の体系なのです。この誤差の大きさは、ICRPの吸収線量評価のスケールを、例えば、微粒子周辺に形成されるベータ線による半径1センチメートルほどの球に、(臓器単位ではなく)計量単位を移すだけで、臓器単位で計測した場合の100倍から1000倍の高い線量を計測できることからも、比較的簡単に実証できます。
質問⑨:シーベルトは一般に使われるようになっていますが、先ほどの吸収線量とあわせて実効線量や荷重係数について説明してくれますか?
矢ヶ崎:用語の簡単な解説を以下に示します。
  • 吸収線量:被曝の量を表します。:臓器あるいは全身に照射された放射線の量をエネルギーで表し、被曝した質量で割って、質量当たりのエネルギーに規格化したものが吸収線量です。吸収された放射線エネルギーをジュール単位で表し、臓器の質量をkgで表し、1kg当たりのエネルギーにしたものが1グレイ(Gy)です。1Gy =1J/kg
  • 放射線加重係数:同じエネルギーの放射線でも、放射線の種類によって生物に与える危害の程度が違います。ガンマ線やX線の光子の放射線を基準として、ベータ線は1倍、アルファ線は20倍のエネルギーを持つとして表記しています。危険度を、エネルギーを何倍かにするという操作で表しているのです。線質係数とも呼ばれました。
  • 等価線量:生物が受けるリスクを反映させる量を、線種だけを考慮して線量の概念で表したものです。放射線の種類による危険度(放射線加重係数)を吸収線量に掛けたものを等価線量と呼び、シーベルトSvで表す。単位はGyと同じです。1Sv =1 J/kg
  • 組織加重係数:臓器によって放射線に対する感受性が異なるといいます。全身が均等に照射されたと仮定して、臓器のリスクの感度すなわち相対的な損害比を組織加重係数と呼びます。
  • 実効線量:吸収線量に放射線加重係数と組織加重係数を掛けて、実際に臓器ごとに現れるであろうリスクに比例する量を、線量で表したものです。単位は等価線量と同じシーベルト(Sv)で表されます。実効線量を低く評価すると、それから計算されるリスク評価も小さくなります。

7、本委員会は、細胞レベルにおける放射線作用モデルを考慮して、外部被曝と相当高い線量領域の中の特定範囲を除き、ICRPの「閾値なしの直線」モデルでは、増加する被曝にともなう生体組織の応答を表すことは出来ないと結論をくだす。ヒロシマの寿命調査研究からの外挿法では、高線量の急性被曝などこれに類似した被曝リスクを反映することが出来るだけである。本委員会は低線量被曝について発表された研究論文から考察して、低線量レベルでは放射線量に対する健康影響が高い比例対応として現れ、また誘発できる細胞修復と高い感受性段階の複製された細胞が存在するために、これらの低線量被曝の多くから2相的線量反応が見られるという結論をくだす。このような線量-応答関係は、疫学的なデータの評価を混乱させる可能性はあるが、本委員会は、疫学的調査研究の結果に見られる直線的応答関係の欠如をもって因果関係に反するという論拠に使用すべきではないと指摘しておく。

質問⑩:ICRPの「閾値なしの直線」モデルでは、細胞レベルの内部被曝は分からないと言っているのですね。もうすこし簡単に言うと、どういうことですか? また、「2相的」というのも分かりませんし、最後のところも分かりにくいですね。
矢ヶ崎:広島・長崎の被曝者のリスク評価は、外部被曝である初期放射線に瞬間的に被曝したことを基盤として行われています。内部被曝を一切無視したものです。広島・長崎の寿命調査などでは放射性降下物による内部被曝を完全に排除しています。被害の現れ方については、ICRPが認定したガン等に限定されています。内部被曝している被爆者を参照群として導いた、初期放射線による被曝者のリスク―線量関係(被害を過小評価している)を、そのまま低線量まで外挿しているのが、ICRPのやり方です。
高線量領域は放射線により生体組織分子が切断されるのが主として現れるリスク領域です。これに対し、「低線量」と称される領域は切断された遺伝子などを、生体が“生命活動として修復作業をするプロセスで生じるリスク”領域です。二つの領域のリスクの土台が明確に異なるのです。リスクの原因が異なる二つの領域を直線的に外挿するのは明瞭な誤りなのです。
内部被曝の場合、体内に入った点線源からは継続的に放射線が放出されています。細胞の複製は2重鎖を解いて複製を行いますが、この時、放射線に対して感受性の高い(リスクの大きい)応答が生じます。これを考慮すれば、線量応答関係が2相的になるといわれます。より低線量の領域で比例係数が高く、線量の高い領域では比例係数が低いという二つの領域に分かれることです。高い感受性の相が低線量でヒットされれば、高い危険率を示すことによって、低線量領域でリスクが高くなるのが「2相的」反応といわれるものです。
この応答はDNAの修復過程あるいは増殖過程で現れる、外部からの刺激に脆弱な過程が現れます。そのタイミングで放射線が再び到達することは、内部被曝では必然性があると判断されます。このように理論的にも現れうることを、現行モデルの、単純比例するモデルから外れているといった理由で、否定するべきでないと考えられます。最近日本語訳された『チェルノブイリ原発事故がもたらしたこれだけの人体被害』では2相的応答が疫学調査から明瞭に示されています。

8、さらに本委員会は、傷害のメカニズムを検討した結果、ICRPの放射線リスクモデルおよびその平均化の方法は、空間と時間の双方において放射線量の非等方性(非均一性)がもたらす影響を排除していると結論をくだす。したがってICRPモデルは、体内のホットパーティクルによる局所的な細胞組織にたいする高線量、および複製誘発と(註:引き続く放射線の打撃による)中断の原因となる連続的ヒット、この双方を無視しており、これらすべての高リスク状況を大きな組織質量で平均化(註:ホットパーティクルのエネルギーを大きな臓器質量で割って小さく)しているにすぎないものである。こうした理由から本委員会は、ICRPがリスク計算の基礎として使用している未修正の「吸収線量」には欠陥があると結論づけ、それに代えて、特定の被曝にかんする生物物理学的、生物学的な観点を基礎とする増大荷重を使用した修正「吸収線量」を採用した。

さらに本委員会は、とくにカーボン14、トリチウムなど特定元素の核種変換過程に由来するリスクに注意を払い、このような被曝には適切な荷重を加えた。またストロンチウム、バリウムおよび特有なオージェ電子など、DNAにたいして著しく生化学的な親和性をもつ諸元素の放射線被曝の場合にも荷重が加えられた。

質問⑪:いままでのまとめのような気もしますが、またまた非等方性とか複製誘発とか中断とか、分からないことばが出てきます。もういちど、「平均化」がなぜいけないのか、何を無視しているのか、説明してくれますか?
矢ヶ崎:ホットパーティクル(多数の放射性原子が含まれる微粒子が中心にある局所的空間)はたった1個だけで十分危険です。アルファ線、ベータ線の飛程が小さいことは、ガンマ線のもたらす散漫な均一被曝とは異なり、局所高濃度被曝と被曝されない領域の両方をもたらす「非等方的(不均一)」被曝です。このような短距離範囲被曝であるホットパーティクル内の危険の表現を、マクロ的サイズの「臓器内のエネルギーだけで」表現するやり方を通じて、危険性が無視されるところとなります。放射線エネルギーを臓器質量で割ることにより何ケタも小さな実効線量を導くことができ、危険を見えなくさせます。これが「平均化」の意味です。また、時間的に継続して被曝を与えることは、いったん切断されて、修復過程にあるDNAにまた放射線が作用する(セカンドイベント)ということが頻繁に起こります。この場合、修復が中断されて再び切断がもたらされるのです。これがさらにリスクを大きくします。生体の反応過程を考慮するとリスクの現れる形態が多様であり、リスクも大きいことが考察されます。
質問⑫:けっきょく、「吸収線量」を修正するかどうかという問題なのですか?
矢ヶ崎:ECRRは、ホットパ-ティクル内の放射線打撃の仕方を空間的・時間的な特徴に分類して危険度を与える「生物物理学的加重係数」、とホットパーティクルの同位体の種類によって危険度を係数として現す「同位体生化学的加重係数」によって、実効線量を修正します。この係数導入で、実際に生ずるリスクを表現できるようになります。これらの係数によって実効線量は現実のリスクを与える大きい線量となります。

松元保昭20120424市民版ECRR2010勧告の概要(その2)

9、本委員会は、類似した被曝から被曝リスクが明確にされるという考えに基づき、疾病に結びつく放射線被曝の証拠を再検討する。したがって本委員会は、原爆の調査研究にはじまり、核実験の死の灰による被曝にいたるまで、核および原子力施設の風下住民、核および原子力施設従事者、再処理工場、自然バックグランド研究、核および原子力事故などに起因する被曝と健康障害に関連する報告書のすべてを検討する。本委員会は、低線量の体内放射線照射に起因する傷害の明白な証拠を示す被曝研究の最近の二つの傾向にとりわけ注目している。

これらは、チェルノブイリ以降の小児白血病にかんする諸研究、およびチェルノブイリ以降に現れているDNA突然変異ミニサテライトが増加していることの観察記録である。これら双方の研究によって、ICRPリスクモデルには100倍から1000倍の係数誤差があることが立証されている。本委員会は、健康影響を評価できるようあらゆる被曝タイプに適用可能なモデルの中に放射線量の算定荷重を設定するため、内部および外部放射線に起因する被曝リスクの証拠を採用する。ICRPとは異なり本委員会では、致死性がんから幼児死亡率にいたるまで、また特定されていない一般的な健康被害を含めた健康障害のその他の原因にまで分析対象を広げる。

質問⑬:係数の誤差に「100倍から1000倍」もあると書いていますが、そういう評価ミスはどういう結果を招くことになるのですか?またこうした指摘を受けて、ICRPでは何か返答したり修正したりしたのですか?
矢ヶ崎:原発推進のためには、現実に現れている健康被害・疾病を隠すことが必要であり、この過小評価は、原発推進と核兵器開発に大きく貢献してきました。前述のように、リスク判定の構成概念は2つあり、①実効線量をどのように算出するか、②単位実効線量(1Sv)当たりに現れる犠牲者数(リスク係数)をどのように与えるか、です。
ICRPは、吸収線量の定義を臓器当たりとすることで実効線量を小さく算出し、放射線が原因で現れる疾病を限定することと、犠牲者を隠ぺいすることによりリスク係数を低くすることの両者を行い、極端にリスクを過小評価してきました。
例えば、ベータ線は体内では1センチメートルほどしか飛びません。この小さい領域に、集中した被曝がもたらされます。このホットパーティクル内で被曝の実効線量を評価すると、ICRP式で計算した値の100倍から1000倍になるのです。歴史的に、ICRPが行ってきた実践は、あらゆる放射線被害の犠牲者を公式記録に載せないようにすることと、内部被曝を研究させないように科学上の専制支配を行うことによってきました。そのひとつの現れは「原子力村」なのです。これらの「科学」操作上の目的意識は、核抑止力と原発を維持するための現実的力にコントロールされ、また、それを支てきました。 誤りが指摘されるとますます、現実利益を守ろうとする力が働きます。隠ぺいあるいは無視することと、被曝の学問を歪める専制支配を強めてきました。福島でも日本政府とそれを支えるICRP論者によりその実施体制は強化されているように見えます。
ECRRの指摘は、ICRPに関係する学会でまともに議論されるのではありません。笑い飛ばしたり、無視することにより、本質的議論を回避しているのが実情です。また、2007年ICRP勧告での吸収線量の定義などは、一見ECRRの指摘にこたえているように見せかけていますが、本質は全く変わらないのです。「粉飾して維持する」ことを行っているのです。

10、本委員会は、現在多発しているがんは、1959年から1963年にかけて地球上で行なわれた大気圏核実験による放射性降下物の結果であり、さらに近年核燃料サイクルの操業から環境中に放出されている放射性核種は、がんおよび他の形態の健康障害にも著しい増加を招くだろうと結論をくだす。

質問⑭:今回のような事故は別にして、普段稼動している原発には放射能汚染の心配はない、というのがいままでの政府や電力会社の説明でしたが?
矢ヶ崎:電力会社や政府は、内部被曝を無視することによって、放射能漏れがあっても「規定された値以下に希釈されているから害はありません」と言い続けて原発を運転し、被害を無視し続けてきました。しかし、グールドらによる、「アメリカの原発周囲100マイルの住民に現れた女性乳がん死亡者の増加」を明らかにした典型的研究などは、明確に原発の日常的放射能漏れの被害を示しています。このほかにも続々と日常的な被害が明らかにされています。核再処理施設セラフィールドの被害はECRRが指摘しているとおりなのです。しかし、政府や電力会社はやすやすと便益を譲り渡すことは致しません。

11、ECRRの新しいモデルとICRPのモデルの双方を使って、1945年以降の核および原子力プロジェクトの結果による全死亡者数を計算した。国連が発表した1989年までの全住民にたいする被曝線量の数値を基礎にしたICRPの計算では、がん死亡者数は117万3600人となる。ところが本委員会のモデルで計算すると、がんによる死亡者が6160万人、子ども160万人、胎児190万人の死亡者数という予測結果となる。さらにECRRでは、地球上の大気圏核実験による放射性降下物の期間に被曝した人々のあらゆる疾病と諸条件を総計すると、生活の質(註:生活の質とは、どれだけ人間らしい生活や自分らしい生活を送り人生に幸福を見出しているか)の10パーセントが失われていると予測している。

質問⑮:これは驚きですね。もしこれが本当だとしたら、がんの原因の相当多くが核兵器や原発の影響ということになりますが、矢ヶ崎先生はどう思われますか?
矢ヶ崎:がんの原因には放射線が大きな要素を占めると思います。
東北大学の瀬木三雄医師のデータをスターングラスがグラフ化した、日本の小児がんの死亡率は、戦前はほぼ一定であったのが、原爆投下と大気圏内核実験の終了する禁止条約(1963年)の5年後、1968年には、戦前の7倍に増加しています。内部被曝で放射性微粒子を体内に取り入れている場合は、たった1個の放射性微粒子でも、線量当たりの発がんの危険性は減少しないことを考慮すると、現在のがん発生の多くは放射線が関与していることを認めざるを得ません。現代社会が多くの要因で多くのがんを多発させ、犠牲者もたくさん出していますが、その基盤に放射線がバックグランドを引き上げ、他の発がん要因と相乗的に重なって被害を増加させているのです。放射線の害は他の因子との相乗作用と免疫力の低下です。

12、本委員会は、自然バックグラウンドの電磁放射線とそれが生成する光電子により、放射線吸収が増強されるということをつうじて、体内にある高い原子番号の諸元素が放射線リスクを増強する(註:自然バックグラウンドの電磁放射線が、体内吸収されている高い原子番号の諸元素に当たると、光電子効果によって新たに電子が放出されて、放射線リスクが増強される)ことを論証する新しい研究に注目している。本委員会は、この効果こそウラン元素の被曝から生じる健康被害の主要な原因であることを確認して、このような被曝にたいする荷重係数を作り上げた。本委員会は、ウラン降下物によって被曝した住民にたいするウラン兵器の影響を検討し、ウラン被曝後に観察された異常な健康被害は、このようなプロセスによってメカニズムが説明されると強調しておく。

質問⑯:ここはウラン兵器の問題だと思いますが、アメリカ政府も日本や各国政府もまだウラン兵器の人体に対する影響を認めていませんね。湾岸戦争やボスニアやコソボ、そしてイラク戦争でも使われ、さまざまな奇形児が生まれていると聞いていますが?
矢ヶ崎:劣化ウラン弾はウラニウム238を使用することに寄ります。核分裂をもたらすものではなく、ウランの質量の大きいことを利用して戦車に穴をあけて破壊するための砲弾です。質量の大きい重いウランが熱により燃えやすいことが、劣化ウランの徹甲機能を飛躍的に増加させます。その際生ずる酸化物のエアロゾールが危険をもたらします。ウラニウム238の半減期が45億年と長いものですから単位時間当たりの放射線数は少なく、ICRP論者は「5グラム飲んでも危害は出ない」と主張しました。典型的にICRPのリスクモデルの誤りを示すケースです。
エアロゾールは放射性微粒子の構成であり、内部被曝では時間的と空間的に危害が与えられます。空間的条件は、アルファ線は40マイクロメートルしか飛ばずにその間に10万個の分子切断を行います。また、アルファ線にはバイスタンダー効果が顕著であり、今まで考えられていた以上に非常に高いリスクをもたらします。今までは、放射線の影響は、単に放射線に打撃された細胞に留まると考えられていましたが、打撃された細胞の周囲にある打撃されていない細胞に、遺伝子の変成がもたらされるということが発見されました。バイスタンダー効果とは、打撃されていない細胞の遺伝子が影響を受けてしまうもので、内部被曝の危険さをさらに浮き彫りにするものです。半減期の長いアルファ線による被曝は、時間的には間隔を置いた放射が、細胞の修復過程を襲い、遺伝子が一度変成されてから次の変成までの期間を、再打撃により短縮させ、発がんまでの期間を短縮させる恐れがあります。
イラクには、1991年の第1次湾岸戦争では、300トンから800トンの劣化ウラン弾が主としてバスラ地方に使用され、2003年の第2次湾岸戦争では1000トンから2000トンがバグダット等の人口密集地にも使用されたといいます、ボスニア紛争にも使用されました。被弾した地方には、おびただしいがん等の発生が報告されています。白血病、リンパ腫、脳腫瘍、出生児の先天的形成異常、死産、・・・。攻撃したアメリカや国連軍等の兵士やその家族にも被害が及んでいます。
1995年と1996年には、沖縄の鳥島に合計1520発、約200キログラムの劣化ウランが、米海兵隊のAV-8B(ハリヤー)2機により機銃掃射されました。1997年に発覚した時の第一声で米軍は沖縄県民に向けて「劣化ウラン弾は放射能では無い」と言明したのです。その後、米軍は何回かの調査に入り、ホットスポットが見つかると周囲の土砂を取り除き、「鳥島には残留した放射能は無い」と発表することを繰り返し基本的な撤去作業は何も行わずに済ませてしまいました。米軍は劣化ウランが「嘉手納弾薬庫と岩国基地にある」と明言しています。日本政府は繰り返しの住民の要求にもかかわらず、撤去要求はついに出しませんでした。
このような劣化ウラン弾の被害はICRPでは全く予見できないのです。ICRPが市民の命を守ることには典型的に無力であり、逆にアメリカ軍などにとっては、軍事的使用を容認してくれるありがたい「防護体系??」をICRPは提供しているのです。

13、本委員会は、ECRR2003年モデルの発表以降、当モデルの予測を裏付ける疫学的報告があったことを指摘しておく。すなわち、2004年のオケアノフによるベラルーシにおけるチェルノブイリの影響報告、および2004年のトンデルによるスウェーデンにおけるチェルノブイリの影響報告である。

質問⑰:オケアノフさんやトンデルさんは、どんな研究をしたのですか?
矢ヶ崎:ICRPなどが低線量域のリスクは小さいと主張している中、オケアノフはチェルノブイリ後の一般のがん発生率を分析し、被​ばく総量より被ばくした時間の長さが、よりリスクを高める要因であ​ることを示したり、2004年には、ベラル-シで小児甲状腺がんの発症率は事故前に比し100倍に上昇したことなどを発表しました。また、ICRPなどがヨーロッパ全域でチェルノブイリ被害などありえないとしていたところ、トンデルらが大掛かりな疫学調査を行い、スウェーデンでがんの増加を報告しています。さらに最近日本語訳されました『チェルノブイリ原発事故がもたらしたこれだけの人体被害』(核戦争防止国際医師会ドイツ支部著、松崎道幸監訳)にはヨーロッパ全域での被害の確認、とりわけ生まれる赤ちゃんの性比(男児/女児)が、事故以後明瞭に増加しているなど、「低線量域での被害」を多数上げています。如何にIAEA、WHOなどを通じてのICRP体制派が被害を公的記録に載せないように阻止してきたか、そのすさまじさを白日のもとに曝す記録が公開されています。

14、本委員会の勧告を列挙する。あらゆる人間的活動をふくむ公衆への最大許容線量は、0.1ミリシーベルトを超えるべきではなく、原子力作業従事者にたいしては2ミリシーベルトとすべきである。これによって原子力発電施設および再処理工場の操業はきびしく削減されることになるが、人類の健康障害があらゆる評価の中にふくまれており、原子力発電は犠牲が大きすぎるエネルギー供給の方法であるという本委員会の確信がここに反映されている。どんな新しい実践においても、すべての個々人の権利が尊重されるやり方で正当化されなければならない。放射線被曝は、利用可能な最新技術を駆使して合理的に達成しうるかぎり低レベルに抑えられるべきである。最後に、放射性物質の排出という環境影響については、すべての生命システムにたいする直接・間接の影響をふくめた全環境との関連性において評価されなければならない。

質問⑱:ここは勧告のまとめだと思いますが、日本は年間1ミリシーベルトと法律で定められていて、今回の事故で政府自らこれを破って20ミリシーベルトまで大丈夫とか言っていますね。原発作業員は250ミリとか言ってますよね。0.1ミリシーベルトというのは厳しすぎると思いますが、これはどうなんでしょうか? 食品、瓦礫、除染などの問題にどう立ち向かえばいいのでしょう?
矢ヶ崎:1ミリシーベルトの被ばく量は、毎秒1万本の放射線が身体に吸収されるのが1年間ずっと続くという量です。ICRPが公衆の年間被曝限度として勧告しているものですが、健康を守れる被曝量ではありません。彼らが掲げる功利主義によって、「原発の運転に支障がきたさない範囲で被曝防護基準を厳しくする」結果のものです。そもそも功利主義は公益を犠牲強要の前提としているのですが、原発爆発事故による被曝は誰にも公益を与えないものです。彼らの功利主義に寄っても、被曝が許される余地が無いのです。にもかかわらず、20ミリシーベルトに釣り上げる根拠は、ただただ、電力会社と政府の責任を減殺するだけのために民を犠牲にしているのです。人間の放射線に対する抵抗力が事故で20倍に強くなる特性などあるはずがありません。事故時には、ICRPが公衆の被曝を防護する誠実さが全くないことを物語っているのです。原発推進側の利益だけが、むき出しに実施されるという、ICRPの本質が日本政府によって実施されたのです。
公衆の年間被曝限度の現在の基準は緩すぎることを前述しました。原発作業員の命は、そうでない人と変わりないはずです。しかし、50ミリシーベルト年間というのが作業員の限度です。原発作業員だといって被曝を多く取って良いはずありません。ですから作業員だから基準を変えるということ自体全く不当なことで、原発会社が命を粗末に扱うことを法令で位置付けているのは不当だと思います。しかし、これを250ミリシーベルトに釣り上げました。まさに東電と政府のご都合主義で人命を軽んじているのです。
0.1ミリシーベルトは、まずは、実現可能な目標であり、そのためには真に放射線を防護する「健康を守る」ための防護という考えと、原発を全廃して放射線源を絶つことが求められています。
食品の限度値も4月から「厳しく」なりましたが、セシウム限度がキログラム当たり100ベクレルはドイツが国として採用している基準の10倍以上の値です。幼児食の50ベクレルに至っては全く許せません。値として言うならば1ベクレルとすべきです。 これらの「基準なるもの」を見る目としては、数値の多寡で見るのではなく、命と健康を守る立場から出てきているのか、あるいは東電と政府の責任を軽くする立場から出てくるものなのか、そのどちらの立場なのかを、しっかり見極めることが必要です。
がれきは「放射能は拡散するべからず、焼却するべからず」という大原則の上で処置しなければなりません。強汚染地帯に野積みされたものは必ず汚染されています。「汚染されていないがれきはありえない」というくらいに言いきって良い状態だと思います。原子炉の中にあるときは「放射能は封じ込める」に徹してきたはずです。それが事故で放出するや、広域に拡散せよとは何事でしょうか!全く矛盾極まりない対応です。何より政府と東電が明確な責任と実践を示すことが必要です。
「除染すれば住めるようになる」ということは現在の高汚染状況では誤った考えです。チェルノブイリ周辺3カ国は、年間1ミリシーベルト以上の汚染地域は、移住権利区域(移住を申請すれば国が責任を持つ。住んでいても良いが特別の注意が必要)、5ミリシーベルト以上は、移住義務(住んでいてはいけない)という限度基準を持ち、住民を保護しています。日本の基準はそれに対応する基準としては20ミリシーベルト、50ミリシーベルトであり、国際的にみても経験を学んでいません。国民を捨てていると非難されても当然です。「直ちには影響はありません」、「必要なのは安心している心です。にこにこして暮らしましょう」では、民を捨てることそのものです。しっかり民を守る立場に政府を立たせることが必要です?
質問⑲:原発や再処理工場がきびしく削減されることは、本委員会の確信(信念)だと言われていますが、矢ヶ崎先生のご意見はどうですか?
矢ヶ崎:アメリカは、核恫喝政策を維持するために、いつでも核兵器を使えて、いつでも核戦争ができる体制が必要だと考えてきました。そのためにウランの濃縮工場はいつでも稼働させておく必要がありました。原発は、アメリカがウラン濃縮工場を経常的に夜も昼も運転させ続けるために考え付いた商売だと言われます。そもそもが「核戦略上必要」だったのです。たかがお湯を沸かすだけのために、このような危険な装置を使おうなどとは、健全な社会を望む健全な市民は、絶対に考えないことです。基本的に現状は放射能を技術的にコントロールする技術を持ちません。ただ封じ込め、冷やし続けることだけが、異質な危険に対応するものです。いつまでも封じ込め続けられるはずがありません。技術では解決できない、危?を内包するものを継続する必然性は全くないのです。ECRRの確信は当然だと思います。
質問⑳:最後に、フクシマの事故から一年が経ち、大気、海洋の汚染もひどく被曝者も全国に広がっています。一方、政府も東電も事故への謝罪も責任者の処罰もなく原発の再稼動、再輸出を目論んでいますが、日本の現状と未来にとって、このECRR勧告の意義はどのようなものだと考えられていますか?ECRRが取り組んでいる今後の課題もあれば、教えてください。
矢ヶ崎:命や環境がどのような放射線被害を受けたか、具体的に認識することが「放射線から命を守る」全ての始まりです。それは誠実な科学を行うことからまず始まります。具体的で誠実な科学が、命や環境を守る全ての土台となるのです。
原爆が落とされ、ビキニで被災したこの日本で、フクシマが起こり、三度被曝の被害者が隠ぺいされようとしています。被害者が切り捨てられようとしているのです。棄民を積極的に「考え方として」指示しているのがICRPです。ICRPは今までの犠牲者隠しと同様に、フクシマでの犠牲者をさらに隠す恐れがあります。それはホールボディーカウンターなどの内部被曝計測を極めて短時間でこなし、全ての人に計測によって「科学的に」内部被曝はありませんでしたと、証明しようとしています。測定したというパフォーマンスで実際に被曝している実態を糊塗しようとしているのです。日本の市民はこれを許してはなりません。政府や行政をありのままに誠実に対応する機関に代えなければなりません。
ECRRは誠実に科学らしい被曝の科学を展開しています。ECRRのリスクモデルは現実に生じた犠牲者の規模を再現できることを目標にしており、その放射線防護は「命を守る」立場で徹底しています。現実を具体的に誠実に科学する姿勢を貫いてさえいれば、健全な市民が健全な被曝防護を求める運動の駆動力となるでしょう。ECRRはフクシマをめぐる状況に対して、心配し、警告も発しています。
すでに深刻な健康被害が、子どもたちだけでなく大人にもたくさん現れています。福島界隈だけでなく、関東圏を含む広範囲な地域から、鼻血、口内炎、抜け毛、充血、生理異常、気管支炎
下痢、咳、倦怠感、皮膚斑点、微熱、食欲不振・・・が、3.11以降の健康変化として訴えられています。しかしながら、病院での対応はけんもほろろに、「こんな程度の放射線被曝で、こんな症状が出るはずがない」、「放射線を気にするより、明るくはつらつとしていた方が何倍もましです」という対応をされるという。憂慮すべきことですが、多くの病院の医師がICRPのみの教育を受けて、内部被曝の実態を認識していないからだと思います。
内部被曝では放射性物質は身体のあらゆるところに運ばれて、放射線を発射しますので、あらゆる健康被害や病気が、必然的にでてくるのです。チェルノブイリを含めて新しい放射線障害の情報が続々と届いています。あらゆる病院のあらゆる医師は、最先端に立たされた心持で放射線被害の実態を学習し、現場に来る市民の健康変調に最大限の「医の倫理」を発揮して対応していただきたいのです。決して「医の安全神話」という、人権の対極にある権威主義を押し付けるようなことは行わないでほしいと思います。
チェルノブイリの周辺と比較して、フクシマと同等レベルの汚染があったところでは大変な健康被害が出ています。福島市、郡山市等を含む中通りは、チェルノブイリ西方100キロから150キロメートルに展開するルギヌイ地区(ウクライナ)の汚染状況と同程度です。ルギヌイ地区では、子どもの甲状腺の病気・悪性腫瘍の超多発、免疫力の低下、平均寿命の短縮、生まれた赤ちゃんの先天性形成障害、病弱、等々が観測されています。これらの健康被害が、福島では出ないから「安心してにこにこしているのが大事」などというのは、いったい何を狙って話をしているのでしょう?ましてや、放射性ヨウ素が大量に漏れ出した時に、政府は安定ヨウ素剤を配布可能なのに、とうとう投与しませんでした。パニックを恐れたからだと一部ではいわれていますが、これほど人命を軽んじた「ストレスが病気を招く論」はありえないでしょう。人をばかにするにも限度があります。
福島県の実施した子どもの甲状腺検査では、30%の子供に、しこりあるいは嚢胞が観測されました。ベラルーシでの研究結果からは、子どもの甲状腺にはセシウムが多量に入っています。このことは今なお、子どもたちの甲状腺はセシウムの放射線で撃たれ続けられていることを物語っています。福島県では2年後まで、検査をしないといっているようですが、少なくとも半年に一遍は、緻密な健康調査をするべきです。福島県内の子どもだけでなくて、全国の子供に、個人負担なしの丁寧な健康診断と治療制度が必要です。
福島県の汚染状態は、チェルノブイリ周辺国で、「移住義務」とされている汚染度以上の地域が遍在します。汚染度からいえば、とにかく避難するべき地域なのです。逆に政府によって、呼び返されるような事態を迎えていますが、避けなければなりません。特に子どもたちには、集団疎開させて安全をまず、確保させるべきです。
日本という国は、被爆犠牲者を最大限隠ぺいする「科学の操作」が行われた舞台を提供し、核兵器による恫喝する軍略を支え、原発犠牲者を最小に見せる「科学操作」を展開する拠点を提供してきました。残念ながらそのICRPの支配体制が、戦後67年になる今日も続いているのです。
日本の良心ある市民と科学者は職業や専門の如何によらず、この「良心を売り渡した似非科学」に終止符を打つ必要があります。具体的で明瞭な科学論を持って、健全な社会を求める市民力を持って、ICRP体制に終止符を打つ必要があります。
私どもは、被曝の科学をめぐる歴史を明らかに、科学らしい内部被曝研究を実施し、命を守る被曝防護を目指して、「市民と科学者の内部被曝問題研究会」を立ち上げました。市民の皆さんと科学者が手を取れば、いのちを守れる展望を開くことが可能であると思います。この作業に、ECRRは良き支えとなり、頼もしいパートナーとなるでしょう。

(以上、【市民版ECRR2010勧告の概要―矢ヶ崎克馬解説・監訳】終了)

【解説・監訳者紹介】矢ヶ崎克馬氏:1943年生まれ。沖縄県在住。広島大学大学院理学研究科博士課程単位取得満期退学。理学博士。専攻は物性物理。琉球大学理学部教授。理学部長などを経て、2009年3月、定年退職。琉球大学名誉教授。2003年より、原爆症認定集団訴訟で「内部被曝」について証言。東日本大震災以後は、福島市ほか各地で放射能測定を実施、全国各地で講演をしている。2011年12月に設立された「市民と科学者の内部被曝問題研究会」の設立呼びかけ人。福島集団疎開裁判にて意見書提出。著書に『隠された被曝』(新日本出版社)、『力学入門(6版)』(裳華房)など、共著には『地震と原発今からの危機』(扶桑社)、『3・11原発事故を語る』(本の泉社)、『内部被曝』(岩波ブックレット)などがある。「沖縄に米軍基地が押し付けられた歴史と、内部被ばくが隠され、福島に原発が押し付けられた歴史は同根」と語っている。

ECRR2010ExecutiveSummary (page 239-243 of Source)

ECRR
2010 Recommendations of the European Committee on Radiation Risk
The Health Effects of Ionising Radiation Exposure at Low Doses for Radiation Protection Purposes. Regulators' Edition.
Executive Summary

This report updates the model presented by the Committee in 2003. It outlines the Committee’s findings regarding the effects on human health of exposure to ionising radiation and presents a new model for assessing these risks. It is intended for decision-makers and others who are interested in this area and aims to provide a concise description of the model developed by the Committee and the evidence on which it depends. The development of the model begins with an analysis of the present risk model of the International Commission on Radiological Protection (ICRP) which is the basis of and dominates all present radiation risk legislation. The Committee regards this ICRP model as essentially flawed as regards its application to exposure to internal radioisotopes but for pragmatic reasons to do with the existence of historical exposure data has agreed to adjust for the errors in the ICRP model by defining isotope and exposure specific weighting factors for internal exposures so that the calculation of effective dose (in Sieverts) remains. Thus, with the new system, the overall risk factors for fatal cancer published by ICRP and other risk agencies may be used largely unchanged and legislation based upon these may also be used unchanged. It is the calculation of the dose which is altered by the Committee's model.

  1. The European Committee on Radiation Risk arose out of criticisms of the risk models of the ICRP which were explicitly identified at the European Parliament STOA workshop in February 1998; subsequently it was agreed that an alternative view should be sought regarding the health effects of low level radiation. The Committee consists of scientists and risk specialists from within Europe but takes evidence and advice from scientists and experts based in other countries.
  2. The report begins by identifying the existence of a dissonance between the risk models of the ICRP and epidemiological evidence of increased risk of illness, particularly cancer and leukaemia, in populations exposed to internal radioactive isotopes from anthropogenic sources. The Committee addresses the basis in scientific philosophy of the ICRP risk model as applied to such risks and concludes that ICRP models have not arisen out of accepted scientific method. Specifically, ICRP has applied the results of external acute radiation exposure to internal chronic exposures from point sources and has relied mainly on physical models for radiation action to support this. However, these are averaging models and cannot apply to the probabilistic exposures which occur at the cell level. A cell is either hit or not hit; minimum impact is that of a hit and impact increases in multiples of this minimum impact, spread over time. Thus the Committee concludes that the epidemiological evidence of internal exposures must take precedence over mechanistic theory-based models in assessing radiation risk from internal sources.
  3. The Committee examines the ethical basis of principles implicit in the ICRP models and hence in legislation based on them. The Committee concludes that the ICRP justifications are based on outmoded philosophical reasoning, specifically the averaging cost-benefit calculations of utilitarianism. Utilitarianism has long been discarded as a foundation for ethical justification of practice owing to its inability to distinguish between just and unjust societies and conditions. It may, for example, be used to underpin a slave society, since it is only overall benefit which is calculated, and not individual benefit. The Committee suggests that rights-based philosophies such as Rawls's Theory of Justice or considerations based on the UN Declaration of Human Rights should be applied to the question of avoidable radiation exposures to members of the public resulting from practice. The Committee concludes that releases of radioactivity without consent can not be justified ethically since the smallest dose has a finite, if small, probability of fatal harm. In the event that such exposures are permitted, the Committee emphasises that the calculation of ‘collective dose’ should be employed for all practices and time scales of interest so that overall harm may be integrated over the populations.
  4. The Committee believes that it is not possible accurately to determine ‘radiation dose to populations’ owing to the problems of averaging over exposure types, cells and individuals and that each exposure should be addressed in terms of its effects at the cell or molecular level. However, in practice this is not possible and so the Committee has developed a model which extends that of the ICRP by the inclusion of two new weighting factors in the calculation of effective dose. These are biological and biophysical weighting factors and they address the problem of ionisation density or fractionation in time and space at the cell level arising from internal point sources. In effect, they are extensions of the ICRP’s radiation weighting factors employed to adjust for differences in ionisation density resulting from different quality radiations (e.g. alpha-, beta and gamma).
  5. The Committee reviews sources of radiation exposure and recommends caution in attempting to gauge the effects of novel exposures by comparison with exposures to natural radiation. Novel exposures include internal exposures to artificial isotopes like Strontium-90 and Plutonium-239 but also include micrometer range aggregates of isotopes (hot particles) which may consist of entirely man-made isotopes (e.g. Plutonium) or altered forms of natural isotopes (e.g. depleted Uranium). Such comparisons are presently made on the basis of the ICRP concept of ‘absorbed dose’ which does not accurately assess the consequence for harm at the cell level. Comparisons between external and internal radiation exposures may also result in underestimates of risk since the effects at the cell level may be quantitatively very different.
  6. The Committee argues that recent discoveries in biology, genetics and cancer research suggest that the ICRP target model of cellular DNA is not a good basis for the analysis of risk and that such physical models of radiation action cannot take precedence over epidemiological studies of exposed populations. Recent results suggest that very little is known about the mechanisms leading from cell impact to clinical disease. The Committee reviews the basis of epidemiological studies of exposure and points out that many examples of clear evidence of harm following exposure have been discounted by ICRP on the basis of invalid physical models of radiation action. The Committee reinstates such studies as a basis for its estimates of radiation risk. Thus the 300-fold discrepancy between the ICRP model's predictions and the observed cases in the Sellafield childhood leukemia cluster becomes an estimator of risk for childhood leukemia following such exposure. The factor is thus incorporated by the Committee into the calculation of harm from internal exposure of specific types through its inclusion in the weighting factors used to calculate the ‘effective dose’ to the children in Sieverts.
  7. The Committee reviews the models of radiation action at the cell level and conclude that the ‘linear no threshold’ model of the ICRP is unlikely to represent the response of the organism to increasing exposure except for external irradiation and for certain end points in the moderately high dose region. Extrapolations from the Hiroshima lifespan studies can only reflect risk for similar exposures i.e. high dose acute exposures. For low-dose exposures the Committee concludes, from a review of published work, that health effects relative to the radiation dose are proportionately higher at low doses and that there may be a biphasic dose response from many of these exposures owing to inducible cell repair and the existence of high-sensitivity phase (replicating) cells. Such dose-response relationships may confound the assessment of epidemiological data and the Committee points out that the lack of a linear response in the results of epidemiological studies should not be used as an argument against causation.
  8. In further considering mechanisms of harm, the Committee concludes that the ICRP model of radiation risk and its averaging methods exclude effects which result from anisotropy of dose both in space and in time. Thus the ICRP model ignores both high doses to local tissue caused by internal hot particles, and sequential hits to cells causing replication induction and interception (second event), and merely averages all these high risk situations over large tissue mass. For these reasons, the Committee concludes that the unadjusted ‘absorbed dose’ used by ICRP as a basis of risk calculations is flawed, and has replaced it with an adjusted ‘absorbed dose’ which uses enhancement weightings based on the biophysical and biological aspects of the specific exposure. In addition, the Committee draws attention to risks from transmutation from certain elements, notably Carbon-14 and Tritium, and has weighted such exposures accordingly. Weightings are also given to radioactive versions of elements which have a particular biochemical affinity for DNA e.g. Strontium and Barium and certain Auger emitters.
  9. The Committee reviews the evidence which links radiation exposure to illness on the basis that similar exposures define the risks of such exposures. Thus the Committee considers all the reports of associations between exposure and ill health, from the A-bomb studies to weapons fallout exposures, through nuclear site downwinders, nuclear workers, reprocessing plants, natural background studies and nuclear accidents. The Committee draw particular attention to two recent sets of exposure studies which show unequivocal evidence of harm from internal irradiation at low dose. These are the studies of infant leukemia following Chernobyl, and the observation of increased minisatellite DNA mutations following Chernobyl. Both of these sets of studies falsify the ICRP risk models by factors of between 100 and 1000. The Committee uses evidence of risk from exposures to internal and external radiation to set the weightings for the calculation of dose in a model which may be applied across all exposure types to estimate health outcomes. Unlike the ICRP the Committee extends the analysis from fatal cancer to infant mortality and other causes of ill health including non-specific general health detriment.
  10. The Committee concludes that the present cancer epidemic is a consequence of exposures to global atmospheric weapons fallout in the period 1959-63 and that more recent releases of radioisotopes to the environment from the operation of the nuclear fuel cycle will result in significant increases in cancer and other types of ill health.
  11. Using both the ECRR's new model and that of the ICRP the Committee calculates the total number of deaths resulting from the nuclear project since 1945. The ICRP calculation, based on figures for doses to populations up to 1989 given by the United Nations, results in 1,173,600 deaths from cancer. The ECRR model predicts 61,600,000 deaths from cancer, 1,600,000 infant deaths and 1,900,000 foetal deaths. In addition, the ECRR predicts a 10% loss of life quality integrated over all diseases and conditions in those who were exposed over the period of global weapons fallout.
  12. The Committee refers to new research which demonstrates enhanced radiation hazards from internalized elements of high atomic number through enhanced absorption of natural background electromagnetic radiation and its conversion into photoelectrons. The Committee identifies this effect as a major cause of the health effects of exposure to the element Uranium and creates a weighting factor for such exposures. The Committee discusses the effects of Uranium weapons on populations exposed to Uranium fallout and asserts that the anomalous health effects observed following Uranium exposures are mechanistically explained by such processes.
  13. The Committee notes that since the publication of its 2003 model there have been epidemiological observations that support the model’s predictions, namely Chernobyl effects in Belarus reported by Okeanov 2004 and Chernobyl effects in Sweden reported by Tondel et al 2004.
  14. The Committee lists its recommendations. The total maximum permissible dose to members of the public arising from all human practices should not be more than 0.1mSv, with a value of 2mSv for nuclear workers. This would severely curtail the operation of nuclear power stations and reprocessing plants, and this reflects the Committee’s belief that nuclear power is a costly way of producing energy when human health deficits are included in the overall assessment. All new practices must be justified in such a way that the rights of all individuals are considered. Radiation exposures must be kept as low as reasonably achievable using best available technology. Finally, the environmental consequences of radioactive discharges must be assessed in relation to the total environment, including both direct and indirect effects on all living systems.