【ジュネーブ伊藤智永】世界保健機関(WHO)の放射線による健康被害調査部門が廃止された後に起きた、東京電力福島第1原発事故。放射線による健康被害は、86年の旧ソ連・チェルノブイリ原発事故と同程度か、それ以下か、それ以上か--。政府や多くの専門家が「今のところ心配ない」と言っても、人々の不安は解消されない。こうした不信感が生まれる土壌には、核の健康被害に関する国際的な調査・研究体制が整備されてこなかった現実がある。
◇戦後の国際秩序反映
半世紀以上前のWHOの報告書がある。放射性物質が人間の遺伝子に及ぼす影響について、エックス線による突然変異を発見しノーベル賞を受賞した遺伝子学者のマラー博士ら専門家に研究を委託した。結論は「原子力発電産業の発展により、将来世代の健康は脅かされている。将来の遺伝子の突然変異が子孫に有害だと判断する」。世界はおののいた。
翌1957年、国際原子力機関(IAEA)が設立された。
IAEAは国連と連携協定も結んでいない独立機関だが、総会や安保理への報告を通じて密接な関係を保持する組織となった。世界の安全保障体制は第二次世界大戦後、「国連安保理常任理事国(P5)=5大核保有国」を頂点とする「核兵器による支配」下にある。つまり、平和利用(原発)に関する権限も、実際はP5の意向抜きには自由に行えないのが、戦後の国際秩序なのだ。その宿命を背負って誕生したのが、IAEAだった。
WHOとIAEAの協定には、「両機関は修正を提起できる」とある。チャンWHO事務局長はNGO代表との面会で、チェルノブイリ事故後の「原子力事故早期通報・援助2条約」と、05年の国際保健規則改定で、IAEAの「拘束」が一層強化されたことを示唆したが、WHOがIAEAに対して協定の「是正」を求めたことは一度もない。
◇チェルノブイリ 揺れた被害者数
もっとも、WHOも手をこまぬいてきたわけではない。チェルノブイリ事故から10年目の95年にはジュネーブの本部で、15年の01年にもキエフで、それぞれ事故の健康被害に関する国際会議を開催。予想以上にひどい被害実態の報告が相次いだ。
しかし、チェルノブイリ事故に幕を引こうとする流れを決定付けたのは、事故20年を前にした05年9月、IAEA本部で開かれた国際会議だった。IAEA、WHOなど国連関連8機関とウクライナ、ベラルーシ、ロシア3カ国で結成された「チェルノブイリ・フォーラム」が主催。「死者56人、将来のがん死者推定3940人」(調査対象60万人)とする報告書を出した。
各方面から「少なすぎる」との非難が集中し、WHOは06年に対象集団を約12倍の740万人に広げ、汚染地域住民5000人を加えて「がん死者推定9000人」と修正。同下部機関の国際がん研究機関(IARC)は、範囲を欧州全域5億7000万人に拡大して「がん死者推定1万6000人」と発表するなど、揺れた。
06年は欧州で多くの見積もりが発表され、3万~6万人(NGOのグリーンピース)▽9万3000人、将来死者14万人(緑の党)▽21万2000人(ロシア医科学アカデミー)▽98万5000人(ロシアのヤブロコフ博士ら)--と幅が大きい。対象人数や平均被ばく量、統計上の係数で数字が大きく変わり、議論は集約されていない。
こうした議論百出の状況を尻目に、国際政治・経済の主流は、気候変動対策や世界経済をけん引する新興国のエネルギー需要を理由に、「原発ルネサンス」へとなだれを打った。福島事故はその直後に起きたのだった。
いったん幕引きに入ったチェルノブイリ事故について、IAEAなど国際機関が新たな調査をまとめる予定はない。国際的な調査基準や体制がない現状で、日本は、福島事故後の健康被害の全容解明を、調査方法の開発を含め、事実上ほぼ独力で進めていかざるを得ない。
<WHOとIAEA関連年表> 1945年 米、原爆投下 48年 ★世界保健機関(WHO)設立 49~52年ソ連、英が原爆保有 53年 ソ連、水爆開発 アイゼンハワー米大統領、国連総会「平和のための核」演説 54年 米、ビキニ環礁核実験、第五福竜丸など被ばく 国連で国際原子力機関(IAEA)憲章の協議開始 55年 ソ連、水爆実験 放射線の影響についての国連科学委員会(UNSCEAR)設立 56年 国連、IAEA憲章採択会議(総会ではない)で憲章草案採択 ★WHO専門家委員会「原発は有害」報告書 57年 ★IAEA設立 英、世界初の原子炉重大事故(火災) 英、水爆実験 59年 ★IAEAとWHOの協定 60~64年 仏、中、原爆実験 67~68年 中、仏、水爆実験 74年 印、原爆実験 79年 米、スリーマイル島原発事故 86年 ソ連・チェルノブイリ原発事故 ★IAEA会議で原子力事故「早期通報・援助」の2条約批准 88年 ★WHO、2条約を批准 95年 ★WHO「チェルノブイリ健康影響国際会議」(ジュネーブ) 98年 印、パキスタン、核実験 2001年 ★WHO「第2回チェルノブイリ国際会議」(キエフ) 05年 IAEAで「チェルノブイリ・フォーラム国際会議」。「がん患者約4000人」の報告書 ★WHOの危機管理「国際保健規則」改定 06年 北朝鮮、核実験 09年 ★WHO、放射線健康局廃止 11年 東京電力福島第1原発事故 ※★はWHOとIAEA関連
毎日201107300230社説:保安院もやらせ 信頼の底が抜けた【ジュネーブ伊藤智永】国連専門機関の世界保健機関(WHO)が、2年前に放射線の健康被害に関する専門部局を廃止し、財政難を理由に今後も復活する予定がないことがわかった。WHOトップのマーガレット・チャン事務局長が5月、WHOによる東京電力福島第1原発事故後の健康被害調査などを求めた、欧州各国の非政府組織(NGO)約40団体の連絡団体「WHOの独立のために」代表らとの面会で認めた。
◇IAEA主導権 原発推進側の兼務に批判
核による健康被害などの調査の主導権は1959年以降、WHOが国際原子力機関(IAEA)と締結した協定でIAEA側に移行されてきており、NGO側は「IAEAは(福島事故の後)各国に原発の推進と監視の分離を求めながら、自分は両方を兼務しており、矛盾がある」などと批判、現在の国際的な原子力監視体制の限界を指摘している。
WHOなどによると、廃止されたのは、原発の人体への影響などを担当していた本部の放射線健康局。09年、産業界との癒着が疑われた局長が退任した後、組織自体が解体された。現在は放射線被害に関する専門職員は1人しかおらず、予算削減などから部局復活の予定はないという。
WHOは、原子力の平和利用推進を目的に発足したIAEAと1959年に協定を締結。IAEAの同意なしには原発関連の健康問題について独自に活動することを制約されていった。86年の旧ソ連・チェルノブイリ原発事故直後の88年には、原子力事故の際にはIAEAが対応の先頭に立つことを明記するなどした新たな二つの条約をIAEAと締結。05年にも、化学・放射性物質に汚染された食品の輸出入問題でもIAEA主導が追加されている。
NGO側は、WHOの調査権限が弱いことがチェルノブイリ事故の健康被害が今も全容解明できていない理由だと批判しており、日本での健康被害調査でも、国連機関の積極的な関与は期待できないのが実態だ。
これに対し、WHO広報担当者は、IAEAとの協定について「WHOだけでなく、すべての国連専門機関は核に関する限り同様の関係にある」と事実上の従属関係にあるとの認識を示しつつ、「健康的な環境づくり部門に複数の放射線研究班がある」と強調。「チェルノブイリ事故についても下部機関の国際がん研究機関(IARC、本部・仏リヨン)や六つの地方事務所で研究を続けている」と語り、調査体制は維持しているとした。
WHOはチェルノブイリ事故被害について05年、事故後20年間の調査結果として「死者56人、将来の推定がん死者数約4000人」と発表。これに対し、NGOなどは「実態と比べて少なすぎる」と批判。WHO側もそれは認めながら、今のところ全容解明に向けた再調査の予定はないとしている。これについてNGO側は「原子力利用推進のIAEAに配慮せざるをえないからだ」と指摘している。
<WHOとIAEA> WHOは、国連と連携協定を結んでいる「専門機関」の一つ。IAEAは、国連と連携協定を結ばず、組織上は独立しているが、総会や安全保障理事会に報告を行う「関連機関」。両機関に組織・権限の上下関係はない。
◇WHOとIAEAの取り決め一覧
- <1959年協定>
- 第1条2項「WHOは、世界中の原子力の平和利用のための研究・発展・利用に ついてはIAEAが行うことを基本的に認める」
- 第7条「IAEAとWHOは、それぞれの活動において無用の重複を避ける」
- 第12条1項「両機関はそれぞれ協定の修正を提起できる」
- <1986年「原子力事故早期通報・援助2条約」(WHOは88年に批准)>
- 原子力事故が起きた時は、IAEAが国際的な対応の先頭に立ち、他の国際機関は、 当該政府の要望や受け入れ表明があった時にのみこれを支援する
- <2005年「国際保健規則」改定>
- 元々は感染症対策を想定した危機管理規則。化学・放射性物質などで汚染された商品の輸出入などの問題にも適用
- 第6条「通報があった問題がIAEAに関連する分野だった場合は、直ちにIAEAに報告する」
木下黄太20110422福島第一原発のコアな作業員が、二百人程度になってしまっているという情報ICRPは、被曝線量と放射線障害の関係を語る上で、LNT仮説(Linear Non-Threshold:しきい値無し直線仮説)を採用しています。日本医学放射線学会の説:1)年間100mSv以下は統計上裏付けるデータがないから安全、2)100mSvから急に発がんリスクが上がる、を認めていません。そのICRPは「事故継続等の緊急時の状況における基準である20~100mSv/年を適用する地域と,事故収束後の基準である1~20mSv/年を適用する地域の併存を認めて」いる訳ですが、20mSvを被爆した場合、晩発性放射線障害で死亡する確率的影響を、人口の0.1%と想定しています。(一朗20110501)
子供は、放射線に対する感受性が強く、幼児などでは10倍が推定出来るとするのが一般的のようです。小学生児童を仮に成人の5倍の感受性があるとして、ICRPの「安全基準」を根拠とするなら、10万人あたり500人の死亡者(後年、晩発性放射線障害で死亡する確率的影響)を見込むことが求められるはずです。もちろんこの数値は、原子力利用を推進する側の組織が提示している内輪の数値と考えるべきであって、また、死亡しないまでも、生活の質を落とさざるを得ない、放射線障害による免疫不全に起因する数々の疾病は含まれていないことを留意した上で、原子力安全委員会と原子力安全・保安院(ならびに内閣府の臨時機関である原子力災害対策本部)は、以上の点をどのように咀嚼したのかお尋ねしたい。(一朗20110501)
アサヒ20110420学校の放射線量、暫定基準を公表 文科省コメントのしようがありませんね。重大な原発事故が発生してから既に40日が経過しており、一切が好転の兆しが無いなかで、関係省庁の役人には放射線量に関わる事項を勉強する動機と時間は十分にあったはずなので、何故、あのように無知な人方が集まってしまったのか理解に苦しむ。原発事故に対する処理の仕方も、誰が陣頭指揮を執っているのか、現状はどのような状況なのか、一切が見えてこないが、もしかしたら、今回の彼らのように無能なお役人が指揮命令系統のトップに居座っているが為に、肝心の事故処理が組織的に迅速に動いていないとするのなら、甚大な被害も不必要に拡大させた結果だということになってしまう。考えたくもないことだが、、、(一朗20110422)
文部科学省の通達を読んでみましたが、新学期を開始させるという前提と、福島県下の小中学校において、その4分の3以上が放射線管理区域相当の空間線量(0.6~2.2μSv/h)が測定されているという現状があり、新学期開始を実行可能とさせるという命題に基づき、どのように鉛筆を嘗めたらよいかと悩んだのが、原子力災害対策本部(内閣府の臨時機関)であり、原子力安全委員会(行政機関ならびに事業者を指導する独立した中立的な機関)であるということ、なのだと思います。ですから、
1)ICRPの安全基準を採用するに当たって、平常時に適用するものでなく、事故など緊急時の基準を適用し、
2)新陳代謝が活発である発育途上の児童生徒に対し、放射線技師など職業人の場合の基準値(20mSv/y)を躊躇いもなく当てはめ、
3)且つ、許容最大値を最大限に猶予すべく、8時間屋外+16時間屋内といった生活パターンから逆算し、
4)内部被爆線量を勘案せず、
おまけに、ご丁寧に、
・・・健康が守られないということではなく、可能な範囲で児童生徒等が受ける線量をできるだけ低く抑えるためのものである・・・
という意味不明の文言まで盛り込んだ通達に対する、上記「OurPlanetTv」会見でした。いやはやなんとも、、、ちなみに、しきい値無し直線仮説(Linear Non-Threshold : LNT仮説)によれば、20mSvとは、人口の0.25~0.6%の人が「確率的影響」により「晩発性放射線障害」を発症し、主に、白血病や癌などで死亡する確率のことで、福島県の児童生徒総数を知りませんが、仮に10万人いるとすれば、後年、晩発性放射線障害で死亡する確率的影響は、250~600人を数えることになります。(一朗20110425)
藤田東吾201104170501究極の灰色政策!「仮設住宅」と「一泊3食温泉付5000円」の真実の意味逐次通訳される方にあらかじめ日本語のスクリプトを佐藤氏が渡していたものだと思いますが、その英語は非常に洗練されたものです。原発行政の問題点を大胆にえぐり出す勇気ある演説内容も必見です。(一朗20110420)
東日本大震災による東京電力福島第一原発の事故で、経済産業省原子力安全・保安院は18日、1~3号機の事故の深刻さを示す国際評価尺度(INES)を、8段階のうち3番目に深刻な「レベル5」にすると発表した。
[パリ 15日 ロイター〕 フランスの原子力安全当局(ASN)は15日、福島第1原子力発電所での事故について、国際基準で定められているレベル7までの分類のうち、レベル6に該当する可能性があるとの見解を明らかにした。
当局は14日、レベル5もしくは6の可能性があるとしていた。
ASNのラコスト局長は会見で「昨日から状況は変わっている。米スリーマイル島原発事故とチェルノブイリ原発事故の間のレベル6であることは明らかだ」と指摘した。