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【第1夜】

アラブ諸国の中の親日感情

アラブ諸国を旅行する人は、現地の人々の間で日本人の評判がいいこと、親日的な人々が多いことに強く印象づけられるだろう。

  親日感情の沿源と日本への求愛の言葉 筆者は1956年頃、東大教授の小掘巌氏から「アラブ諸国にみなぎるのは明治維新以後の日本への憧れは『まだ見ぬフィアンセ』の思慕にも似た感情だった」という言葉や、アラブに関心を寄せ始めていた小生に深い刻み込まれたが、アラブ連盟駐日代表部副所長であったス-ダンの外交官のアブデル・ラ-マン・マ-リ氏の「アラブは親日感情の沁みとおった肥沃な大地だ。

  ここに種を撒き育てることは、われわれの義務ではないか」と言う言葉も忘れがたい。また、アラブの代表的ジャーナリストのモハッメド・ヘイカル氏も「日本とアラブ世界の間にはプラトニック・ラブとも言うべき感情がある」と言葉があった。

  さて、近代の国際社会、とりわけ、アジア、アラブなど発展途上国の中で日本の存在を大きくクローズアップしたのは、日露戦争における日本の勝利であった。

  当時、アラブの世界で、「日本の乙女」というロマンティックな題名を持つ日露戦争を歌った有名な詩がエジプトであり、大詩人ハーフェズ・イブラヒームによって作られた。この詩はつい半世紀前までは、多くの知識人の間で暗唱されるくらい記憶されていたが、いまでも、エジプトやアラブの教科書に使われてたり、時としてラジオなどで朗読されることがあるという。


日本の乙女 ハ-フェズ・イブラヒ-ム作

(前略)『砲火飛び散る戦いの最中にて傷つきし兵士たちを看護せんとうら若き日本の乙女、立ち働けり、 牝鹿(めじか)にも似て美しき汝(な)れ、危うきかな!いくさの庭に死の影満てるを、われは、日本の乙女、銃もて戦う能わずも、身を挺(てい)して傷病兵に尽すはわがつとめ、 ミカドは祖国の勝利のため死をさえ教えたまわりき。 ミカドによりて祖国は大国となり、西の国ぐにも目をみはりたり。わが民こぞりて力を合わせ、世界の雄国たらんと力尽すなり。』 (後略) 以上大意



レバノンの教科書に載った「日本の乙女」
 

 一九世紀末から今世紀初頭にかけて『ナイルの詩人』とうたわれたハ-フェズ・イブラヒ-ムの流麗なこの詩の一節は、その後長く多くのアラブ人によって愛唱された。とりわけ、この詩にこもる大国ロシアに大勝し、近代国家建設にばく進している極東の島国日本の姿は、当時すでにイギリスの支配に組込まれていたエジプト人の心に大きな灯をともしたのである。

当時、ロンドンでの留学を終えた若き孫文が、帰国の途中スエズ運河を通過するためポ-トサイドに下船した時、駆け寄ってきた現地のエジプト人から「バルチック艦隊を全滅させた日本の勝利を知った。共に喜んでほしい」と聞かされた、という逸話を、1924年に来日し、神戸で「大アジア主義」という講演をした際に語っている。

その日露戦争での日本兵士の戦いぶりを描いた桜井忠温『肉弾』は、アラビア語に翻訳された最初の日本の小説で、当時、アラブ諸国に広く読まれている。これ以後、戦前戦後を通じて、日本人に対する期待や敬愛の感情は根強くあるが、 日本へのこうした期待と親日感情は、日本にとって”貴重な財産”と思う。

もしアラブ諸国をはじめ発展途上国からの期待、情熱を一種のエネルギーとして計算することができるのなら、日本は世界一の”期待エネルギー保有国”といえると思う。日本の中東外交がこうした伝統的な親日感情に応え、かつその発展に努めて欲しいものである。


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