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【第5夜】

現代版”知恵の館”を!

●中世のアラブの黄金文明

 新しいミリネアムの2000年という節目にあたって、「世界に役立つ日本の役割」と は何かと言う問題は、われわれ日本人が見極めねばならない緊急の課題であろう。
 筆者は、日本に現代版『知恵の館』とも言うべき一大国際翻訳センターを建設し、 明治維新以来蓄積されてきた知識を世界に発信することが、日本の重要な役割の一つ だと考えている。

 『知恵の館』(ベイト・エル・ヒクマ)とは、9世紀にバグダ-ドを都とするアッ バ-ス王朝・第7代のカリフ・マム-ンが建設した翻訳所、研究所、図書館を含む一 大翻訳センターのことである。

 カリフ・マム-ンは、ここでアラブ各地から翻訳者を集めて、ギリシャ、インド、 ペルシャの古典から医学、哲学、数学、物理学など、人文科学と自然科学の知識をア ラビア語にどしどし翻訳させ、これらの知識の吸収、融合によって中世のアラブの黄 金文明が築きあげた。

 このアラブ人による華麗な『翻訳活動』がやがて、ヨ-ロッパの文芸復興として開 花し、それが現代の科学技術の礎石となった。われわれの科学技術も、中世アラブ世 界の知識の集積の恩恵を受けていることはいうまでもない。

 日本は、明治維新以後「広く世界に知識を求め」、ひたすら「追いつけ、追こせ」 と欧米諸国の文化や技術を営々として翻訳し続け、日本の近代化、工業化に役立てて きた。
 いま日本で出版されている「世界大百科事典」「世界文学全集」、さらにはCDつき の「世界民族音楽全集」などは、現代の日本語にインプットされた日本版「知恵の 館」といえるであろう。

 それでは、これから日本は、日本語という大瓶の中に封じ込めらている日本人が 営々と築き上げてきた(プラスとマイナスを含めた)知識の宝庫--その歴史、文化、技術などを様々な国の外国語に、少なくとも、英語にどしどし訳し、世界平和や 発展途上国の開発、文化交流のために役立てるベき時期ではないか。

 この大瓶の蓋をあけて、中の知識を飛び出させ、国際社会に役立たせしめる『開 け、ゴマ!』という呪文は、活発な翻訳活動に外ならない。(今は、英語が国際語に なっているが、筆者はエスペランチストなので、平易で、中立的で、表現よく豊かな エスペラントの文献にすることも意義あると思っている。)

 膨大な発展途上国の少年少女に、日本人が様々な知識を伝達することは、明治以 来、先進国諸国の知識人から学び取ったわれわれの義務であるといえるであろう。今 度は、発展途上国の青年男女に、『ボーイズ&ガールズ・ビー・アンビシャス』と励 ます立場に立っているといえるであろう。

 ●世界の発展めざす翻訳出版を

 アラブ諸国など発展途上国ばかりでなく、西欧諸国もまた、日本に関する情報をし きりに求めている。しかし、日本を理解して貰うための文献の翻訳活動が、まだまだ 組織的に行なわれていないのが実情である。

 端的に言って、これらの日本に関する翻訳書のリストには、まだまだ文学とか生 花、歌舞伎といったエキゾティックな日本か、あるひは、高度な専門的書物が目立 つ。そして、全世界の多くの人々が日本に対して切実に求めている、現代日本の社会 や日本人の普段着の生活を知らせる判り易い出版物や、とりわけ発展途上国の人びと が通切にもとめる技術移転に必要な基礎的な科学技術の本は極めて僅かである。

 こういう欠陥を克服し、翻訳の効果の高めるためにも、アンケ-トやインタビュ- によって、発展途上国・アラブ諸国から率直になにを求めているのかを引き出すこと により、共同の討議によって、ニーズに基づく翻訳活動をすすめれば、その効果は実 り豊かなものとなろう。

 きっと多くの反響が来ることと思う。その翻訳は、政府、その他の補助金がとれる こともあろうし、相手が是非ともということであれば、応分の翻訳料、出版費用を負 担してもらっても一向に差し支えないのではないか。こちらで、かってに出版して押 しつけるよりはるかに効果的であろう。

 人材こそ豊富であっても、日本はいまも資源小国である。日本が生きていくために も、発展途上国の国づくりに役立つ日本の知識を、バ-タ-する必要が重要になって きたといってよい。

 日本発の「知恵の館」が実現すれば、世界の文化交流を活性化し、深めることにな るであろう。また、この事業を通して、日本語を習得した外国人、さまざまな現地語 を身につけた日本人に、貴重な彼らの知識をいかす仕事を与えることになり、日本に とって限りなく有益であろう。

 この現地語であるアラビア語への翻訳者の予備軍は、1975年からカイロ大学文学部 の日本語科で育ってきている教授や卒業生の中に、蓄積されてきているのではない か。

 とかく卒業しても、観光ガイドしかできないのを残念がっている青年たちに、その 能力を生かす機会が増大するであろう。
 また、こうした日本語科が、サウジアラビアのキング・アジ-ズ大学、チュニジア のブルギバ語学研究所にもあり、日本語のできる人材が育っているのも貴重である。

 また、この翻訳活動の中で、アラブ諸国の技術者、知識人、イラストレーターを含 む童話作家、作曲家との連繋も生み出され、共同で技術書、児童文学書、教育雑誌、 ひいては、紙芝居から、ビデオ、さらにはアニメづくりなどへ、次第にレベルアップ していけるのではないか。

 「知恵の館」の建設と、そこを根拠とするこうした活発な国際活動によって、「世 界に役立つ日本の役割」という歴史的使命が、しだいに鮮明になり、日本人の眠れる 潜在能力の堀り起こしが可能となっていくのではなかろうか。

 *現代版“知恵の館”に対する御意見をお待ちしています(編集長)。


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