自衛隊のイラクへの派兵を食い止めるためのパースぺクティブな戦略構築を目指すために |
「日本アラブ通信」編集長 阿部政雄
アメリカの対イラク政策が大破たんに見舞われはじめている。正義に基づかず、青写真もなしに強引に実現しようとした石油の略奪戦争と言う砂上の楼閣が、根元から竜巻きのような嵐に吹きつけられ揺らぎ出している。
イラク占領は、当初の計画とは違い事態は悪化する一方で、これまでにイラク駐留米軍兵士の死亡者は300名に近付き、このうち戦闘終結宣言した5月1日以降に、それ以前を上回る149名以上が犠牲になっている。兵士の家族から、イラクからの早期の引き上げを求める声を高まっている。米軍はますます泥沼にぶくぶく沈みはじめている。
イラク戦争とその占領の費用も、既に湾岸戦争を大幅に上回っており、ブッシュ大統領は7日の演説で870億ドルの追加予算を議会に求め、名指しで日本の積極貢献を要求し、米政府高官は当面必要な復興費用を「500億-750億ドル」と見積もっていることを明らかにした。チェニー副大統領によればこの870億ドルもさらに追加予算が必要と言う。
当然、ブッシュ大統領の支持率も52%とダウンし、その人気の低下に歯止めかからず急降下中である。
そこで、焦りぎみのゴッドファーザー、ブッシュ大統領は、事前の連絡もなく突然、10月17日に来日し、ブッシュ政権に忠誠無比の全面協力を誓った可愛い子分、小泉首相に約束通り、自衛隊の派遣と復興予算に多額の金額を拠出させようと迫るものと見られている。
総選挙を真近かに控え、自衛隊を出して犠牲者でも出だ時のマイナス面も生じかねないと、渋い顔をしているのか、あるいは自衛隊の若葉マーク卒業が早くなったとほくそ笑んでいるのか、また、多額の貢納金にしても「超大国の大統領の別荘」に招いたばかりか、ブッシュ親分の盃まで頂戴し、「男、純一郎」を持ち上げてくれた謝礼としては仕方がない、総裁再選にはプラス材料だ、どっちみち払うのは、俺の金ではない、国民からの税金で済むことだ「ケセラーセラー、なるようになれ」とたかをくくっているのはか分からないが、何はともあれ、日本の首相なのだから「ドント・ゲット・アウエイ・フロム・ジャパン」と啖呵のひとつも吐きたくなる。
予期せぬ事態の展開にうろたえたブッシュ大統領は、イラク問題に関し、国際社会に対して国連安保理での過去の対立を水に流して協力するように求めたが、肝心の主導権については欲の皮の突っ張った立場を捨てていない。まるで壷の中のクルミを拳にいっぱい握りしめたまま、壷から手が抜けないと騒いでいる猿そっくりではないか。
とにかく、劣化ウラン弾を大量に落とそうが、クラスター爆弾を雨のように降らようが、利潤になりさえればいいというネオコンにとって、一旦にぎった儲けは死んでも離さないというのが、「死の商人」の家訓なのであろう。
TUP-Bulletinによれば、「石油価格の戦時高騰の結果、これまでの3ヶ月期におけるシェブロン・テキサコ社の収益は4倍に増えて、16億ドルに達し、シェブロン・テキサコ、シェル、ブリティッシュ石油、その他の巨大石油企業は、早々に米英占領につけこんで、イラク原油購入契約を勝ち取り、荒稼ぎしている。甘い汁をたっぷり吸うことができるであろう。」という。
「アメリカ占領当局が大言壮語して、多国籍企業へのイラク石油の売却収益はイラクを利することになると布告しているが、現実はそれほど単純ではないようだ。イラク原油売却収入は基金に組み込まれ、イラク『再建』資金として、他業種多国籍企業への支払いに当てられることになる。これらの企業群には、石油・エネルギー業界向け製品・サービスの世界最大手であり、第1次湾岸戦争の最大受益企業でもあったハリバートン社(推定契約額11億4000万ドル)とか、何よりもイラクの水道事業の私営利権を渇望しているベクテル社も含まれている」とのことである。
小泉首相がアメリカの産軍複合体の営業部とも言うべきブッシュ政権に覚えのめでたいのは当然であろう。その理由は、ネオコンは、「戦争から生じたイラクの破壊からの復興資金は、アメリカ以外の国々からできるだけ出させるのが、ネオコンにとっての腕の見せ所だ。この点、日本の小泉首相など、こちらが頼みもしないうちから、イラク戦争には、イージス艦も自衛隊も、復興資金も何でも御用立てしますぜ、と申し出てくれるではないか。こんなネオコン族の守り本尊のような奇特な首相には、日本の首相として再選はおろか、3選もしてほしい位だ。日本の首相を他の国も見習えばいいのに」と思っているからではないかと考えている。
俗に、「親亀がこけたら、その甲羅にしがみついていた子亀はふるい落とされる」のが通り相場なのだが、ネオコン一家は、小泉首相が、ただ単に背中から転げ落ちると言っただけでは、済まされないのだ。小泉首相が首相であるうちにとにかく、自衛隊を派遣させ、イラク人を殺傷させ、「日本の手をアラブの血で汚させる」ところまで、持っていかないことには、ネオコンにとっての忠犬ポチの役割は終わっていないのである。
(自国の首相を忠犬ポチと呼ぶなど、寝覚めが悪いことおびただしいが、今ではマスコミでの愛称とさえなっている以上、使わないのも悪い気がする)
回りくどい前口上は抜きにして、ズバリ言えば、日本がが550億ドルを払うと言ったところで、アメリカの思惑とはほど遠い。(もちろん、そんな金を日本がびた一文払う必要はないし、そんな国民の福祉、教育を犠牲にする費用分担などすべきではない)。アメリカの狙っているのは、この多分におっちょこちょいの忠犬が首相のポストにいる限り、何としてでも日本はやはり帝国主義国家ということを、アラブ中東の人々に実物教育し、日本のこれまでの声望を失墜させ、あわよくば、日本を中東地域から追い出したいのである。とにかく、おだてたり、おどしたり、あの手この手とポチの鼻先にえさをぶら下げて釣り上げてしまおうと言う作戦であろう。それにしても、小泉氏はたとえ保守であっても日本の憲法の原則を尊重してきた戦後の首相達のことをどう思っているのだろうか。やはり変人も変人で、奇人のたぐいなのだろうか。
アラブ諸国と付き合いはじめてから、もう半世紀にも近くなると言う小生の経験からして痛感することは、明治時代の日露戦争で西欧大国ロシアにた対する勝利とその後の長い歴史の中で育まれたアラブの人々の日本への憧れ、尊敬、親愛の気持ちなど(いわゆる「幸福な誤解」と言える一面も持っていたが)アラブ中東地域にみなぎる親日感情のエネルギーは、日本にとってかけがえのない資産であり、むしろ21世紀においての日本の進路を指し示す、貴重な宝物であるということである。
前にも、発言したことがあるが、将来、「イラクがイラク人の手に帰り」、イラクの復興が軌道に乗ったとき、イラクが一番復興のために汗を流してほしいのが、他ならぬ日本と日本人なのである。そして、復興事業など頼もうなど毛頭考えず、ただひたすら一日も早く引き上げて欲しいのが、アメリカとアメリカ人である。もっとも、アメリカの占領軍のおかげで、ヨルダンの銀行で横領事件をしでかし、今なお追求されているようなイラク国民会議議長のチャラビー氏のようないかがわしい人物でもイラク暫定評議会の議長にでもなれる現在、ごくごく少数派とは言え、アメリカ拝跪主義のイラク人が存在することは否定できない。しかし、こうした人物達は、アメリカが去ったら、また「風とともに去る」人々であろう。
これまで、膨大な人数のイラク人を大量破壊兵器で殺りくし、湾岸戦争以来13年に続いた経済制裁によって100万とも150万とも言う、幼児、女性、高齢者を死なしていることを忘れてしまったアメリカは、イラク人全体から、自分たちは「招かざる客」とみなされていることに思い知らされはじめている。
今後、アメリカが狙うことは、できるだけ、イラク人とクルド人、イラク人同士を宗派の違いを誇張して宣伝し、内部の対立、混乱を助長させ、できることなら内乱にまで持っていくことを画策するに違いない。ヨルダン大使館の爆破事件の背後にチャラビ氏の影がいるとかどこかのメールで読んだことがあったが、国連事務所爆破事件は、国連の声望がイラクで高まるのを恐れる単独行動主義の反映ととらえることができるし、ナジャフの回教寺院銃撃事件でシーア派の指導者を殺害し、サダムの残党の仕業と触れ回ることによって、シーア派とスンニー派の激突まで画策したのではという噂も流れている。
何しろ、日本の真珠湾攻撃を事前に知っていながら、潜水艦の通りやすいように、防御網を開いて待っていたとか、ベトナム戦争を開始するのに、トンキン湾事件をわざと起こしたとか、最近では、例の9・11事件がたとえ、ビンラーディーンのグループがやったにせよ、あの事件を知っていた政府関係者はかなりおり、とりわけあの日の2日前にユダヤ人には貿易センタービルの事務所に誰が一人として出社しないようにと言うおふれがまわされ、事実、ユダヤ人は一人も死んでいなというのも気味の悪い話しだ。
最後に、戦中派のしんがりに属する小生が、大量破壊兵器と聞いてすぐ連想するは、アメリカの広島、長崎への原爆投下である。こうした非戦闘員を情け容赦なく殺りくする点では、米英とともに、パレスチナ人を虫けら同然に平然と殺すイスラエルのシオニズムを連想する。
一説によると、イラクの土地の買収に奔走しているユダヤ人もいるとか、そうしたユダヤ人の住む建物は、米軍の警護が厳重だともバクダードから帰った人に直接きいたことがある。何しろ、イスラエルの国旗に描かれているダビデの星の両側に水色の二本の線は「ユーフラテスからナイルまで」と言う旧約聖書の言葉由来しているという。
小生は、4月に出した『イラクとともに30年』(出帆新社)の中で、今世界をのっしのっしとのし歩くのは、双頭の大蛇(ネオコンとシオニズム)と書いたが、石原都知事の暴言にもうかがえるように、現在の世界の紛争対立の中でも人種差別主義の問題は今後もっともっと真剣に検討されるべきである。
アメリカの主要な反戦平和団体のInternational A。N。S。W。E。R (Act Now to Stop
War & End Racism! は訳せば、「戦争を阻止し、人種差別主義を終わらせるため今こそ立ち上がろう!」と言う運動である。
イラクの問題は、もっと時間的にも、空間的にも広いパースペクティブな視点から見つめ直されるべきで、時とともに起伏する現象に振り回されていたのでは、仲間割れしたり、各個撃破されていくばかりではないかと危惧する。もっと巨悪の根源をしり、平和と文化を愛する多くの人々を結集することができる、文化、平和、ヒューマニズムのルネッサンスを目指すような骨太な戦略を構築せねばならない時期にきているのではないかと真剣に思っている。
このことについても、もっと書きたいことがあるが、ちょうど時間となってしまいました。後はまたの機会といたさせて頂きます。