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【第10夜】

チュニジアの民話を中心にシディ・ブサイド、アグラビッド貯水地、水道橋編

 「ところ変われど変わらぬものは、人の情けの袖時雨」という歌の文句があるが、 はるか海を隔てても、人情の機微はどこも同じである。  

こうした人情を如実に繁栄しているのが、民話など民間伝承であろう。取り分け、 歴史の古いアラブには、多くの昔話が残っており、またアラブの人々は、こうした物 語を聞くのが好きだ。  恋人に死なれて狂人となる日本の「お夏清十郎」を思わせる「マジュヌン・ライラ 」の話や日本でいえば、義経とか弁慶等の英雄豪傑といった物語が高い人気を集めて いるが、今回は、チュニジアに伝わる3つの民間伝承を御紹介しよう。  

昔、チュニスがローマに占領されたとき、チュニス郊外に住んでいた美しい娘に占 領軍の将軍が一目惚れ、二人は相思相愛の中になり、遂に将軍は恋に生きる道を選び 、将軍の座を投げ打って、郊外に隠れ家となる二人の愛の巣に隠とんしたという。この将軍の名が、今も「世界で一番美しい都市」(ジョンガンサー)とうたわれたシデ ィ・ブサイドの地名として残っている。  

二つめは、チュニジアのカイルワンの郊外にアグラビッド王朝第6代のアブ・イブ ラヒ-ム・アハメッド王が9世紀に築いたアグラビッド貯水地にまつわるお話。伝説 によれば、王は若い頃から権力と金にまかせて放埒な生活を送った。年老いて病気に なったとき、夢の中に神が現れて「死ぬ前にこの地域の住民の誰からも喜ばれるもの を建設するなら汝の罪はゆるされるであろう」とのお告げを受けた。翌日、目が覚め た時、王は熟考した結果、住民全体にたいする何よりの贈り物とは、水に違いないと 思い当り、この貯水地を築いたということだ。    

もう一つは、チュニスの南約70キロのザグーアンの巨大なローマ水道橋の遺跡に まつわる民話である。  この地域も紀元前2世紀頃、ローマに征服された。ローマの将軍が、ここに住むベ ルベルの美しい王女を見染め「自分の妻になれ、承諾すればどんな望みもかなえて進 ぜよう」と迫った。  

ローマの将軍を嫌っていたベルベルの王女は「このザグーアンからカルタゴまでの 水道を引いてくれたら応じましょう」と返事をした。数年後、いよいよ、この長い距 離の水道の完成を祝う日、王女は、得意絶頂の将軍の前で、20メートルの上から身 を投げて死んだという。  

このテーマは、映画化された井上靖の小説「桜蘭」の中にも、そっくり出てきて、 桜蘭を支配した漢族の将軍の前で、完成した館の頂上から飛び下りる桜蘭の王女の悲 劇とそっくりだった。


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