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【第12夜】

アラブへの日本中小企業の技術移転

国際協力の際に一番大事なことは、相手の国が最も切実に必要とするニーズに答え ることと言われている。このことは「世界に貢献する日本の具体的役割」にも関連す るが、端的にいってアラブ諸国、いや発展途上国が日本に求めるものは、明治維新以 来、日本人が営々と築いてきた現代日本に蓄積された教育や技術の伝授ではないだろ うか。

 それは、かって日本が新しい日本の各種産業を建設する上で、先進諸国の優れた技 術専門家や知識人を招聘したり、西欧諸国に留学生を派遣したことが想起させる。

 今、アラブ諸国でのマンパワーの階層制度は、多数の手仕事のホワイトカラ-、筋 肉労働者、極く少数の専門家、技術者、熟練労働者となっている。  これからの国づくりに必要なことは、こうしたマンパワーの階層制度を、先進国と 同じように、より多くの熟練労働者、中間幹部、より少数の未熟練工、および手工的 労働者へと切り変えていくことが必要であり、そのためのマンパワー養成の計画、訓 練などが必要となっている。

しかし、そうは言っても、人材育成には、広汎な国民に対する義務教育を含む長期 の教育が必要とされる。そうした意味で、これから各種の産業を育成しようとしてい るアラブ諸国にたいして、それらの国で新しい労働の場を造り出すためにも、日本の 産業の中核をなす各産業の中小企業の経験が必要ではないだろうか。

1978年、海外経済協力月間の記念講演の中で、大来佐武郎日本経済研究セン ター会長は、次のように述べた。  「現在ある日本の知識、経験と同時に過去の日本の経験のなかに、途上国の開発に 役に立つものも相当あると思う。中小企業の現場でいろいろ仕事をしているおやじさ んの技術や、機械や設備の保守、修理などは、途上国でとくに必要とされているもの である。…

これをどのような方法で、世界の、とくに貧しい国ぐにの発展のために役立てる か、日本人自身も工夫しなければならない。それが結局、世界の中の日本のイメ-ジ をよりよいものにするのであって、さらにそれが、”資源のない国、日本の将来の経 済、生活の保証の裏ずけにもなっていくのである。」(国際開発ジャ-ナル1978年10 月号)

事実、 1977年2月、永野重雄日本商工会議所会頭を団長とする大型経済施設 団がアラブ湾岸諸国を訪問した折、アラブ首長国連邦のオタイバ石油相は、「日本は 国造りを百年でやりとげた優秀な技術を持っている。それを国造りを急いでいるわれ われに提供して欲しい」と要望した。

前年の1976年には、経団連、中東協力センター等の主催で、10名近くのアラ ブ諸国の閣僚を迎えて大規模な日本アラブ・シンポジウムが開かれた時にも、こうし た問題が討議されており、日本アラブ技術移転会議も1970年代に開かれている。

正直言って、アラブ諸国が求めている技術移転というニーズに対する日本の確たる 政策はまだ確立されていないといってもいい。今からでも、遅くない。冒頭に掲げた 「世界に役立つ日本の役割」こそが「日本の今後の生きる道」という認識から、これ までの国際会議で討議された技術移転を巡る問題点を再点検し、その中で有効な項目 をひろいだし、今日に生きる政策づくりに役立てるべきではないだろうか。

 明治の中期にも、新時代にふさわしい独立自主の精神を柱に、イギリスの産業を紹 介し、S・スマイルズ著『西国立志伝』(中村正直訳)がベスト・セラ-になったこ とからも判るように、当時の日本人はどん欲までに西欧の経験を取り入れようと努力 してきた。また、独学で日本独自の紡績機械を発明したように、血の滲むような努力 で、今日の日本の産業の基礎を築いてきた。

こうした先進国からの技術を修得するためには、技術を修得する側のアラブ諸国に も、自ら手を汚して、技術を修得するセフル・ヘルプ、つまり自助の精神が何より重 要なことを日本の経験として伝えることも大切であろう。


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