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【第13夜】

新しい国際協力の黎明を秘めた「地中海映画祭」

 中東アラブ地域は最も重要な地域であるにも関わらず、世界の中でも最も理解 しがたい地域といわれている。つまり、重要性に反比例して、正確な情報量が圧倒的 に少ないのである。その原因にはここでは立ち入らないが、果たしてこれが情報化時 代だろうかと疑問が湧いてくる。それはともかく、5月19日から始まった地中海映画祭(主催:国際交流基金、朝 日新聞社)は、これまであまり見る機会がなかったアラブ映画に接することのできる 極めて重要な映画祭と言えよう。(イベントの項参照)

 長編ドキュメンタリー映画を含め、22本の映画の中で12本のアラブの優れた 劇映画が上映されるこの地中海映画祭は、アラブ諸国に関心を持つ人々に見逃すべか らざる正に神様の贈り物と言ってもいいようなイベントである。

 「芝居は一日の早学問」ともいわれているように、映画もまた、アラブの社会や 人々の心を生き生きととらえ、切れば赤い血の出る生きたアラブ人の喜怒哀楽を見る 者の胸に訴えてくる。アラブを理解しようとあれこれ読書に没頭している人々は、一 時的に「書を捨て、映画祭に足を運んでほしい」。きっとアラブ諸国が急に身近に感 じることのできる心の記念碑となろう。

 今はグローバリゼーションが声高にいわれている時代であるが、端的にいって、映 画についていえば、世界の映画館に氾濫しているのは、圧倒的にハリウッド映画であ り、グローバリゼ-ションどころかハリウッド映画を中心としたポラリゼ-ション (一極化)ではないか。

 様々な国の映画人が精魂かけて作った力作映画は、世界の人々の生活、直面する課 題、願いなどーーたとえば、宗教、人種、性別等々によっていかに人類の悲劇が今な お続けられているかといったことをひしひしと我々に伝えてくれる。そして、ところ 変われど変わらぬ人々の悲劇の源が同じことであることに気付くことから、真の国際 協力が始まるであろうし、またこうした映画の分野での国際協力が進展していく中で、 新しい文化を作る切っ掛けが生まれるのではないか。
かって、国際交流基金は、これまで1982年の「東南アジア映画祭」以来、「ア フリカ」、「中近東」等の映画祭を含め、数々の地域映画祭を開催してきた。それが 起爆剤ととなって、まだまだ規模は小さいとは言え、東南アジア、インドの映画をはじめ、エジプト、イランの映画がNHKの教育番組や一般の劇場等で紹介されるになっ た。

 これは全国の映画フアンにとって、何よりの福音であるが、この地中海映画祭の上 映作品は、国際交流基金の計らいで、今後3年の間日本各地で上映されることになる というのは朗報だ。

 願わくば12本一挙に上映される今回のアラブ映画が、アラブの映画がもっと頻繁 に、できれば一般の映画館でも見られるような下地づくりになって欲しい。聞くとこ ろによれば、一部の参加作品は、地域のホールでの商業ベースによる上映の検討もさ れているという。是非この映画祭が日本各地で開催され、アラブ映画の輸入の気運の 醸成に役立ってほしい。それによってアラブの映画人がより優れた映画の政策資金を 得ることができれば、何よりの贈り物になるであろう。

 かって1962年に石原裕次郎のエジプトロケにより、日活の「アラブの嵐」(新 アラブ千一夜11夜参照)が作られたように、日本とアラブ、さらに他の発展途上国 の映画人との間で、共同で、新しい人類の文化を共同創作するといった方向に発展し ていってほしい。

 また、この『地中海映画祭』が世界の諸民族の協力による平和な社会を築く新しい 千年期の幕開けを告げる意義深いイベントになっていってほしいものである。

 事実、この映画祭はそうした明るい未来を希求してやまない世界の人々の夢を実現 する深い潜在力を秘めている歴史的催しであると信じて止まない。


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