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【第14夜】

物語の宝庫、アラブを話芸で紹介



7月からは、NHKの『4大文明展』はじまり、日本人の古代オリエント世界への 関心が高まることと思う。

この地域は、世界最古の文学といわれる『ギルガメシュ叙事詩』、『シヌエの物語 り』などの古代ファラオ時代の物語を始め、聖書、コーランから、中世の『アラビア ンナイト』まで、実に多くの物語が夜空に輝く大銀河のように残されている。

聖書に次いで世界で最も広く読まれている『アラビアンナイト』の中から『シンド バッドの冒険』や『アラジンと魔法のランプ』を幼い頃読まれた人はきっと多いに違 いない。

『アラビアンナイト』の中で夜な夜な家来をつれてバクダ-ドの下情を視察して善 政を施したカリフ(教主)ハルンラシ-ド王は、日本の水戸黄門を彷彿させるし、恋 人の死を悲しんで発狂する詩人カイスの悲劇をうたった名高い『マジュヌンライラの 物語』は江戸時代の『お夏清十郎』を思い出させる。

日本でいえば、義経とか弁慶等の英雄豪傑、庶民にとっての義賊鼠小僧などといっ た英雄も、アラブでも高い人気を集めている。エジプトやシリアでは『アブー・ザイ ド武勇伝』、『バイバルス武勇伝』、北アフリカでの『ヒラール部族武勇伝』が良く 知られている。

しかし、こうした口承文学は、やはり、読むよりもその語りを聴く方が遥かに楽し い。筆者もモロッコのマラケッシュの有名な大道芸広場で子供を対象に宗教的説話を 話している老人を目撃したが、アラブのテレビ番組を見ていると歴史的英雄物語りの ナレーションは、見事な語りだと感心したものである。

そういえば、近代演劇の誕生に尽力した坪内逍遥の「桐一葉」など歌舞伎史劇の台 詞は、朗々と歌うような格調高いものだったが、逍遥自身が自ら訳したシェイクスピ アの『アントニ-とクレオパトラ』の朗読研究会を明治23年(1890年)に早稲 田大学の仲間とともに創ったのが、朗読の始まりといわれている。

日本の朗読は、戦後一時期停滞していたが、最近またテ-プレコダ-やカセット・ テ-プの普及によって、静かなブ-ムといった現象が起きている。筆者自身、下北沢 にある放送表現教育センタ-(主宰 山内雅人氏)で朗読の基礎から学なんだことが あ る。

山内氏は、戦後のNHKテレビの『笛吹き童子』などで活躍された戦後の朗読界で の先駆的ベテランであるが、作品をそれぞれのおもむきに沿って劇的に読む「ドラマ テック・リーディング」を提唱し、朗読を「話芸」として芸能の一分野に位 置づけて、 多くの朗読志望の若い人々の教育にあたっておられる。

放送表現教育センターでは、朗読教室ばかりでなく、声優の養成教室、子供のため の母親の朗読教室なども開かれているが、物語の宝庫、アラブの語りなども取り上げ てみたいとのことである。

幸い、日本には、アラブを国民に広く知らせる絶好の朗読用の書物としては、故前 嶋信次先生がアラビア語から訳された「アラビアン・ナイト」や、矢島文夫、牟田口 義郎両 教授らの数々の著作がある。また、児童向けの中近東、アラブの神話、民話に優れた 著書も多い。

また、アラブ諸国で音楽を修得してきた演奏家の活動が目だちはじめている。いつ の日か、日本の話芸家やこうした音楽家の力で、アラブの物語が舞台で上演される日 が来るこ とを願ってやまない。

こうしたアラブの語りを味わったり、自らかたることによって、歴史と現代を、ア ラブと日本を結ぶシルクロ-ドならぬ”ハ-トロ-ド”として発展させたいものであ る。

恥ずかしながら、筆者も、1990年3月、地中海学会の主催で、ヌゥ-ボ-講談 と銘うって『アラブの騎士-愛の巡礼物語』を一席、語ったことがある。 幸い、マ ス コミにも取り上げられたせいもあって、70名という多数の参加者を得て、初回にし ては、 極めて好意的な反響を得ることができた。

実はこのような試みをしたことも、 大学での「中東研究」という講義を成るべく 聴きやすく、魅力ある話し方を習得したかったからであるが、その目標は十分に達成 され たことを喜んでいる。

(* 放送表現教育センター (主宰:山内雅人氏) 〒155-0031 東京都世田谷区北沢2-8-13 Tel. 3467-6871 FAX 3467-6873 なお同センターでは、毎月第3日曜日の翌日の月曜の夜7時から「朗読の夕べを開催している(入場無料)。 朗読の楽しさを知る貴重な機会としてお勧めしたい。 )


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