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【第17夜】

エジプトの人形劇

8月初旬開かれる「2000年とやま世界こども演劇祭」にエジプトから児童劇団 が参加するが、その演目はエジプトの代表的な人形劇『大いなる夜』(サラハ・ジャ ヒン作)が上演される。

エジプトの人形劇はすでに古代のファラオの王朝時代に宗教的儀式の中で人形劇が 使われたといわれるほどに古く、近世になってからは、トルコから流れてきた指人形 が農村などにも残っていて、決して伝統がなかったわけではない。

1965年、半年ほどカイロに滞在した時、エズベキヤ公園にある8階立てのカ イロ人形劇場の堂々たる建物を初めて見たときにはびっくりさせられた。この人形劇 場ビルの2階と3階につくられた座席370のホ-ルは、あらゆる人形劇の実験がで きるように設計されており、人形と舞台装置の製作室、稽古場、図書室、会議室など も併設されている。単独の人形劇場としては恐らく世界一であろう。

カイロ人形劇団は、1959年の創設以来数年にして国際人形コンク-ルで二等賞 を受賞するなど目覚ましい進歩を遂げ、筆者も1965年、”黒の劇場”による『夢 の国』やとりわけこの民俗的な楽しい『大いなる夜』を見たときの感激をは今も忘れ ない。この劇のエジプトの現代演劇で占める地位は『夕鶴』(木下順二作)のような ものと思った。

カイロの人形劇場の開設にあたっては、エジプト演劇界の開拓者のアルエルライ博 士のつよい指導があったといわれ、新しい国民文化に惜しみなく予算を出す当時のエ ジプトの文化にかける熱意が伝わってくるようだった。 

イスラ-ムの聖人の誕生日を祝うお祭りの縁日に集まった、農村の善男善女や縁日 の行 商人や見世物小屋の風景をスケッチしたオペレッタ風のこの操り人形劇は、国 際人形劇フェスチバルで銀賞を獲得していた傑作である。  

大正時代の日本の縁日を彷彿させるこの劇は、糸さばきの芸もなかなか細かく、と くに登場する人形がそれぞれユーモラスな個性を持ち、その伴奏の朗誦は日本で言え ば、浄瑠璃に相当するものであろうが、そのアラビア語も一流詩人の作品だけにリズ ミカルで美しい語りであった。  

この人形劇は、詩の朗誦コ-ラスにつれて場面が展開してゆく趣向。舞台はまず お会式の万灯よろしく、イスラ-ムの楯をかざした村人の行進から始まり、つづいて 色とりどりの民族衣装の飴売りや甘水売りなどの屋台の前で駄々をこねる子供たち、 腕力を試す鉄棒使い、ロバにおびえる臆病なサ-カスのライオン、上エジプトの民俗 色豊かな馬の踊りと棒術踊り、踊り子の妖艶なオリエンタル・ダンスや聖歌を朗誦す るイスラム僧など、祭りの夜のにぎわいが走馬灯のように鮮やかに展開し、最後の帰 らぬ子供たちを呼ぶ母親の声と、イスラム寺院の光塔で朝の祈りを呼びかける僧侶の 勤行が、白みゆく朝の空に響いて行くところで幕となる。  

まさに、国際フェスチバル第二位の貫禄を備えていたと思った。 

これまで、日本から劇団「風の子」、藤蔭影絵団、さらに「ひとみ座」などの公演 が行われて、カイロの子供達は、目を輝かせてみていたというが、こうした児童劇団 の交流の活発化を願って止まない。 

長い海外生活を終えて帰国してからの第2作品となったオマーシャリフ主演の映画 『アラゴーズ』(1966年6月の「エジプト映画祭」ーエジプト大使館主催ーでも 上映された)は、彼の演じる指人形芝居師の物語であった。アラゴーズとは、元々は トルコ語で影絵芝居のことだが、現代のエジプトでは少し違って、村の辻などで独り で行う指人形芝居のようなものである。ただ紙芝居と違うのは、定番伝統的な物語は あるにしても、かなり即興的もしくは創作的な部分があり、社会批判や諷刺の手段に もなり得るということだ。また映画の中にもあるように、アラゴーズは村においてマ スコミ的な機能を持ち、村びとの不正や醜聞を暴く役割を果たし得た。この指人形芝 居は、映画の中でもられるように、60年代になると村にもテレビが普及するように なり、見物の子供が集まらなくなって、次第に廃業に追い込まれている。

指人形の他に、カヤールエルデルという影絵劇もある。その発祥地はまだ未詳だが、インドか中国か、アジアのどこかだろうと推測されているに過ぎない。固定小屋か、移動式の影絵かに別 れる。板の衝立の中央部がくり抜かれて、そこで影絵劇場に登場する人形が写 し出され、芝居の進行につれて、伴奏音楽が演奏される。座頭と称されせられる長老が、多くの劇、エピソード、詩文を暗記しており、民話、詩文を座員の伴奏に伴って歌い上げる。


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