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【第18夜】

リビアにかんする3題話
ーーー セウェルス(ローマ)皇帝、モクタール・オマール、緑の山

リビアはまだ日本では馴染みのない国である。つい最近までは「暴れん坊カダフィの国」だの「テロ支援国家」など西欧のマスコミでは、「恐ろしい国」と言った恐ろしい国と言うイメージづくりに励んでいた。こうした報道は、正直言って、アメリカの政策にづけづけものを言う国に張られるレッテルのような傾向があることも否めない事実である。それはともかく、リビアが経済制裁から解除され、リビアへの入国が自由になったことは喜ばしい。

筆者は、これまで、リビアを3回訪問した。とくに、l975年には、リビアの観 光テレビ番組をつくる朝日テレビ映像の取材班にくわわってリビアの主要な都市と観 光の名所を訪問できたのは幸運であった。 まさに「百聞は一見にしかず」の例にもれず、リビアでも「あっと驚く」意外かつ貴重な発見をした。寄席芸で披露される三題噺めくが、その珍しい噺の一端をこ こで披露することにする。

まず最初、リビアの首都トリポリ市の中央にローマの高低の銅像がでんと立っていたことであった。ナセルなき後アラブ民族主義の旗手を自負するカダフィー大佐のお膝元でこともあろうにイタリアの古代の皇帝の像を首都のまん中に飾っておくなんて、リビアッていったい何などだと一瞬何か不可思議な国に迷い込んだような戸惑いの気持ちに襲われた。 しかし、それこそリビアに対する無知蒙昧のなせる業で、この銅像はリビア出身のローマ皇帝セプティミウス・セウェルス(在位 193ー211)の銅像であった。

「えっ!ローマ皇帝がリビア人!」と二度びっくりしたわけだが、それは、ローマ 時代には、ローマの属州だった東地中海の沿岸地域のアラブの国々、シリア、レバノ ン、ヨルダンから、エジプト、さらに西方に転じて、リビア、チュニジア、アルジェ リアなどがローマ帝国の版図の中に入り、ローマの議会の議員の半分以上がこれらの 国の出身議員によって占められていることもあったと言う。

確かに、リビアに残っているローマの遺跡、例えばレプティス・マグナは、古代ローマの遺跡の中で最大と言われるのもっとも言うほどで規模壮大な遺跡なのであり、オ-ドリー・ヘプバ-ン主演の「ローマの休日」に出てくる箱庭みたいなローマ遺跡の名所とは規模が違う。ローマの遺跡をみたければ、シリア、レバノン、ヨルダン、リビア、アルジェリアの壮大な遺跡を見ない前から「ローマ遺跡を見た」などと言わない方がいいと言うのが、筆者の偽らざる感想である。レプティス・マグナだけでも、ゆっくり鑑賞したかったら、弁当もちで行かなければならないと現地の太田日本大使に教えてもらったことを思い出す。

もう一つは、1985年頃日本でも封切られたリビアの独立運動の英雄モクタール・オマールを描いた「砂漠のライオン」である。その数年後にも深夜テレビ放送で放送されたので記憶されている方が多いに違いないが、シリア生まれの監督アッカドがメガホンをとったこの映画は、ギリシャの名優アンソニ-・クイーンや、ローバート・リードなどの芸達者な俳優が活躍するこの映画の制作費は、なんと総額4億円ほど。その雄大なスペクタクル風の画面 の迫力も去ることながら、75才の老齢まで、リビアの愛国者を引き連れて緑の山に立てこもり、近代的武器を備えたイタリア侵略軍に7年の長きに渡って抗戦し、最後は捕らえられ、リビア民衆の前で、見せしめのために絞首刑となる。その精神性の高さには、ただただ脱帽である。娯楽性に富むと共に、リビアの歴史を忠実に描いたこうした名作映画こそ、もう一度映画館でみたいものである。

さて残る話題の一つは、テレビ番組をつくるため、リビアの海岸線を2000キロ ほど走破したが、なんと言っても今述べた緑の山と言われる森林地帯である。森林地 帯と言っても日本のように鬱蒼たる森ではないが、かって筆者が訪れたl970年頃 はまだ、広大な砂漠に植樹をしたり、スプリンクラーが水しぶきをあげて、緑を樹木 に給水していたが、リビアは今では、農業を自給自足しているまでになっていると言 う。

事実リビアの海岸線は美しい。道路も立派に鋪装されているし、こうした北アフリ カの海岸道路をカイロから、モロッコのラバとまで観光バス旅行をしたらさぞ楽しい だろうとテレビ取材班のメンバーと話し合ったことを思い出す。リビアについての珍 しい発見はまだまだ続くが、東の空も少しづつ明け染めて参りましたので、今日の噺 はこれにて打ち切らせて頂きます。その続きを聞きたい方は、7月22日(土)から 毎週土曜に行われる近畿日本ツーリストのサハラクラブ主催の「歴史と文化の講座 (リビア編)」で講議をすることになっているのでお誘い合わせて御出席下さいます ことをお願い申しあげる次第です。


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