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【第29夜】
中世アラブでは日本は「ワークワーク」

 日本はアラブ世界の中で、いつ頃からその存在を知られるようになったのであろうか。
 日本のイスラム圏研究の大先輩、小林元教授によると、9、10世紀ごろのアラビ ア、ペルシャの文献には、「ワークワーク」と「シーラ」という国のことが記されて おり、ワークワークが倭国、シーラが新羅、つまり朝鮮のことではないかとされてい る。

 東京大学教養大学部の杉田英明助教授は、その著『日本人の中東発見ー逆遠近法 のなかの比較文化』( 東京大学出版会)の中で、「ワークワーク」に関する一番古 い記述は、ペルシャ出身の駅逓長官イブン・フルダーズビズがカリフの要請で著した アラビア語最初の地誌、『諸道諸国誌』(850年頃)に現われているという。

 「シナの東方には、ワークワークの国(bilad al-waqwaq)がある。黄金に富むため、 犬の鎖や猿の首輪にまで、黄金を用い、黄金で織った衣服をもって来て売るほどであ る。ワークワークではまた良質の黒檀を産する」
 マルコポーロの「東方見聞録」にも「黄金に埋もれたジパング」と日本の当時のこ とが書かれているが、おそらく原典はこの地誌であったのだろう。
 中国の人々が日本を”黄金の国”と考えてしまった背景 は元冦前の日中貿易において、日本側の主要輸出品が金銀 蒔絵の調度品や扇であったとか、遣唐使の時代、朝廷が日 本人留学生に届けた滞在費は、殆どが砂金であったので、 これを見た中国人が日本を豊かな産金国と考えてたらしい という。

 11世紀といえば、日本では京都で藤原氏が全盛を極めていた時代で、その頃のサ ラセンの著述家イブラヒ-ム・ビン・ワ-シフ・シャ-ハは次のように書いている。 「ワ-クワ-ク国とその諸島とは支那の東 にあり。金すこぶる多く、かくて住民 は金を もって馬のくつわ、器、犬の鎖を作り、錦 糸織りの下着を用う。」

 アラビアの地理学者の現存テキストを校定刊行したオランダの大学者ド・フィエは、 「ワーク」すなわち「倭国」として、日本を有力候補地にあげている。  アラビア湾とワークワークを結ぶダウ船交易は、中国のジャンクが運んで来た日本 の陶器をインドで積み取り、持ち帰って来る。この陶器とともに倭国の話が伝わり、 「ワークワーク島」として結晶したのではなかろうか。(朝日旅の百科 海外編)  

 アラブ庶民の目には、わずか百年で近代化を成しとげ、大工業国にのし上がった 「ワークワーク島」は、近代化伝説に包まれた。今持って遠い国としか映っていない ようだ。  大正十二年、日本で上映され大 好評だったダグラス・ファアバンク主演の名作無 声映画「バグダ-ドの盗賊」に上山草人がモンゴ-ルの王子に扮し、バグダードのカ リフの王女の願いをかなえんものと、世界中の出来事を瞬時に見ることができる「黄 金のリンゴ」をワ-クワ-クの国に捜しに行きそれを手に入れるシ-ンがある。

 これは、バグダードのカリフが、王女の婿に迎えるという条件は、4人の求婚者の 王子ーペルシャ、インド、蒙古と元の王子、バグダードのスリこと今は7つの島の王 子に化けた主人公のアハマッドの4人に、王女が一番気に入ると思われる宝物を世界 中探し出し、持ち帰った者に王女を嫁がせるいう話が出てくるが、「かぐや姫」物語 の婿取りの話とそっくりであるのも興味深い。
 (このビデオ『バグダード』の盗賊)はツタヤ等のビデオレンタル店で借りれます。 小生が東海大学国際学科で紹介した時も中世の美術、建築、物語で知る上で貴重だと 好評でした。10年前に東京の武道館で上映されたこの無声映画にリムスキーコルサ コフの伴奏音楽があり最高でしたが)

 また、アラビアンナイトの中で、ワークワークが出てくる『バスラのハッサン』 (第770ー830夜)として知られる物語は、お伽話の雰囲気にみちているが、こ こでは主人公はペルシャの魔法使いによって連れ出され、魔人の王国へ入り込むが、 ここで彼の魔人の王女の一人が大ぜいの乙女たちとともに湖で水浴しているのを見て 恋する。この乙女たちは、鳥の姿をしているが、ここでは羽衣を脱ぎすて、素っ裸で その美しさを見せているのだった。この物語は全世界に広がっている白鳥乙女説話の 一つであり、チャイコフスキーの『白鳥の湖』や日本の『羽衣』と共通のものである。

 『千一夜物語』にしばしば登場する、太刀持ちと警視総監を連れて、お忍び姿でバ グダードの下情視察に出かけたハルラシード王は、助さん格さんを供にして諸国漫遊をした水戸黄門を彷彿とさせるが、こうした伝承の比較も面白い課題ではないか。


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